はじめに

今週29日は9月中間期末の配当権利落ち日でした。この日の日経平均は150円弱の配当落ちを受けて反落して始まりましたが、徐々に下げ幅を縮めると最後は小幅高で取引を終えました。配当落ち分を埋めきったということです。

配当落ち分を即日埋めるのは相場が強い証拠といいます。背景にはやはり菅政権への期待があると考えられます。菅政権への期待とは規制改革が進むという期待です。


「官僚を動かせ」

首相就任記者会見で菅氏は、省庁の縦割り行政や携帯電話3社による寡占体制がもたらした弊害に触れ、「規制改革を政権のど真ん中に置く」と語りました。民間企業の競争を促し消費者の利便性を向上させるとともに、企業の新陳代謝を高めることで経済を活性化させる、それが菅政権による成長戦略の一丁目一番地です。

規制改革の必要性は以前から叫ばれてきましたが一向に進みませんでした。規制改革というのは端的に言えば官僚がもつ権限を緩和するということですが、省庁の権益、体面、いろいろな理由から官僚はそう簡単に権限を手放しません。

本来であれば官僚ににらみをきかせるのは政治家の役目ですが、これまでの日本では首相が頻繁に交代していました。そのたびに当然、内閣も入れ替わります。規制改革の旗振り役となる政治の体制がころころ変わっていては官僚に対してグリップを効かせることもできなかったわけです。

その意味では長期政権となった安倍政権下でもっと規制改革が進んでもよかったはずですが、その安倍政権がやり残した規制改革を今度の新政権で進展させられるのではと期待が高まっています。

菅氏の著書「政治家の覚悟」のサブタイトルは「官僚を動かせ」です。日本の未来を築くためには、官僚をうまく使いながら国益を増大させるほかに道はないというのが菅氏のかねてからの持論で、安倍政権時代に築いた官邸主導の政治体制がそれを可能にすると思われます。

シングルヒット量産を狙う菅改革

「菅首相のアプローチは、小泉純一郎元首相に近い」という声があります。確かに小泉元首のキャッチフレーズ「自民党をぶっ壊す」は菅首相の「省庁の縦割りをぶち壊す」に通じるところがあります。

しかし決定的に違うのは小泉改革には「郵政民営化」という大きな本丸がありましたが菅政権はそのようなものはありません。また、菅首相はアベノミクスを継承すると述べましたが、スガノミクスはアベノミクスと本質的に異なります。

アベノミクスは「経済再生、デフレからの脱却」という大きなマクロの目標を掲げ、それを機動的な財政出動と異次元の金融緩和で達成してきました。それに比べると、スガノミクスは携帯料金値下げや地銀再編など、個別でミクロ的な政策メニューが並んでいます。

小泉改革の「郵政民営化」、アベノミクスの「日本再興戦略」、そういう大上段に振りかざした大きな目標はありません。それが悪いというのではなく、むしろその逆です。「郵政民営化」のような大ホームランを狙うのではなく、シングルヒットを量産するのがスガノミクスの本領だと思うのです。

その積み上げは大きな成果となるでしょう。スガノミクスの規制改革で日本企業が変わる事例が積み上がれば海外投資家からの資金流入も加速するでしょう。

菅政権の肝いり政策がデジタル庁の創設です。これから日本が向かう先は、様々な分野で規制緩和が進み、同時にデジタル化が加速する社会です。そこから導き出される答えのひとつは、新しい技術で社会を便利にする新興のテクノロジー企業が活躍する場がもっと増えるということでしょう。

その期待が最近のIPOの活況や東証マザーズ銘柄の好パフォーマンスに表れていると思われます。

さらに二極化が進む日本企業

冒頭で、配当落ちを即日埋めるのは相場が強い証拠と述べましたが、もうひとつ相場の強さを示すのが日経500種平均です。バブル時の高値も抜いて史上最高値を更新しました。

日経500は入れ替えが頻繁かつ適切に行われているため、日本の産業構造の変化をよく反映している、いわば「勝ち組インデックス」だと言われます。様々な分野で規制緩和が進み、デジタル化が加速する社会は、優勝劣敗がはっきりつく社会でもあります。

米国の巨大IT企業を見ても分かる通り、強い者がさらに強くなる傾向がコロナで一段と加速しています。そうした環境で推進されるスガノミクスは、今の勝ち組企業と新興ハイテク企業の隆盛を後押しするでしょう。つまり二極化が進むということです。

規制や慣習に守られて変革の気概がない旧態依然たる企業は、いくら大企業であっても淘汰されることは避けられないでしょう。

<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>
<写真:代表撮影/ロイター/アフロ>