はじめに

年明けまで大統領が決まらない可能性も?

金融市場では、トランプ大統領の感染が判明した10月2日に大幅な株安となった後、週明け5日には大統領が早期に退院したことで市場の不安心理が和らぎ、大きく反発しました。

9月末の討論会以降、トランプ大統領が敗勢に追い込まれているとの雰囲気が強まっています。ただ、今後新たなサプライズが起こり得ることを含めて、情勢が厳しくなっているトランプ陣営が挽回して、最終的に大統領選挙で再選される可能性は十分残されていると筆者は見ています。

まず、米国の多くのメディアは反トランプのバイアスを持っているとみられるため、報道がバイデン優勢の方向に傾き易いことには留意すべきでしょう。更に、2016年の事前の世論調査ではヒラリークリントン候補が圧倒的に優勢とされる中で、実際の投票結果は真逆でした。これには「隠れトランプ支持者」の存在が大きかったことは周知の事実となっています。

つまり、メディアの調査に対してはトランプ支持者とは回答しないが、実際に投票行動ではトランプに投じる人が多いということです。そして「隠れトランプ支持者」の影響を調整する手法を使ったトラファルガーグループの世論調査では、他の世論調査よりも接戦州でのトランプ大統領の支持率が総じて高いことが示されています。

2020年の大統領選挙においても、隠れトランプ支持者が一定数存在しており、事前調査でも僅差の接戦であれば、トランプ大統領が勝利する可能性が十分残っていることを意味します。

以上を踏まえて、少なくとも11月3日の投票日までは、「分断された民意」による大統領選挙は、どちらの勝利もありえる接戦が続くと筆者は予想しています。そして、郵便投票の正統性を巡る問題があるため、投票日を過ぎてもどちらが大統領になるか分からない状況が、年明けまで続く可能性もあります。

米国株のトレンド変化は大統領が決まってから

今週10月6日には、トランプ大統領が民主党と行ってきた追加財政政策に関する協議を中止するとツイートして米株価が急落しました。ただその日のうちに、トランプ大統領が航空産業などへの救済策など限定された追加財政政策を民主党に示したことが好感され、7日には株価が再び大きく反発しました。

トランプ大統領が追加財政政策に関する協議の方針を変えたことが、株式市場を上下させているわけです。これまでの協議をやめて、航空産業支援や現金給付第2弾などのメニューに絞り、追加財政政策を実現させるのがトランプ大統領の戦略です。

仮に現金給付第2弾が含まれれば、米国の個人消費を後押しする一因になります。ただ、協議相手である民主党議員がこの提案にどう対応するかは、本稿執筆時点(10月8日8時)では不明です。

追加財政政策は仮に実現してもごく小規模でしか実現しないと筆者は予想していますが、大規模な追加財政政策の発動が混迷する大統領選挙後に先送りになれば、米国経済はどうなるでしょうか。

トランプ政権が新型コロナ危機に対して大規模な財政政策を発動して、経済復調を後押ししたことは、他国と比べて米国の株式市場のパフォーマンスが相対的に良い1つの要因でしょう。

ただ、追加的な家計や企業に対する支援策がなければ、米経済は二番底に至ると想定するのはやや悲観的過ぎると見ています。失業給付の上乗せが減る一方で、雇用が増えると見られるため、家計全体の所得の落ち込みは限定的になるためです。

また、4~6月に行われた家計を中心とした大規模な所得支援政策が、タイムラグを伴って2020年末までの個人消費の回復を支えると見られます。このため、足元の株式市場を上下させている追加財政政策協議を巡る政治の駆け引きを重視する必要はないと考えています。

米国の株式市場のトレンドに影響を及ぼすより重要な点は、トランプ大統領が敗北して、民主党政権がキャピタルゲイン税の増税など株式市場を下押しする経済政策を発動するか否か、だと筆者は考えています。

大統領選挙終盤を迎え、トランプ大統領の行動や発言で米国株市場は一喜一憂しています。年明けまで大統領が決まらないシナリオすら想定される中で、しばらくはトランプ劇場で株式市場が乱高下する場面が更に増えるでしょう。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>
<写真:ロイター/アフロ>

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