はじめに
「コロナ以前の経営問題」に対するアンサー?
「すかいらーく」の経営の強みは、その原価マネジメントにあります。食材を店舗ではなく、セントラルキッチンで集中して加工することで生産性を高め、さらに自動化も推進することで、2019年は原価率30.4%と業界トップクラスの数値を叩き出しました。徹底した原価コントロールによる安定的な経営基盤で、現在の「ファミレス最大手」の地位を築いてきたのです。
しかしその一方、同社はコロナ以前から「ある問題」を同時に抱えていました。
それは人件費の高騰です。
2019年の決算短信をみると、売上収益は増加していますが、営業利益は前年同期比10.0%減と2017年から3期連続で減少しています。同社の有価証券報告書を参照すると、2019年の人件費は約1,304億円、売上収益から割り出される人件費率は34.7%で、2014年に比べて2.2ポイントも膨れあがっています。
年々上昇する人件費が収益を圧迫しており、2020年は同社にとって店舗業務の抜本的な見直しが急がれていたタイミングだったのです。
むろん、そんな折のコロナショックが大きな痛手であったことは事実です。一方、規模の大小はあるにせよ、「不採算店舗の削減」はもともと避けては通れない道だった。逆に言えば、コロナショックが経営改革を一気に加速させた、と捉えることもできるのです。
実際、「すかいらーく」が同日発表した「Withコロナの経営戦略」は、新しい生活様式で求められるファミレス像を提示しているだけでなく、コロナ以前から継続していた経営問題に対するアンサーにもなっており、興味深いものがあります。
Withコロナの経営戦略
「すかいらーく」では今後もテイクアウト・デリバリーサービスの需要は拡大していくと見ており、すでにそれに即した業態へと急転換を図っています。
テイクアウトは今年4月以降、対応店を2,800店に拡大し、専用のウェブサイトの会員登録数も伸ばすことで、前年に比べて2倍以上の売上を毎月継続しており、的確にコロナ禍のニーズを取り込んでいます。
また、デリバリーサービス対応店も前年(1,314店)から1,910店に急ピッチで増やしており、今後はデリバリー特化型店舗も開発・導入することで、全国にくまなく配達できる体勢を整えていく方針です。
そして、一番面白いのが「経営資源の最大活用」という取り組み。
「すかいらーく」では現在、ガスト、ジョナサンのほかに、夢庵、藍屋など20以上の多様なブランド店を展開していますが、今後は1つの店舗に2つのブランドを展開する「複合業態」という新しい経営手法を導入するというのです。
具体的には「から好しINガスト」がその最たる例です。
「から好し」とは、同社のブランドの1つである唐揚げ専門店。つまり「から好しINガスト」とは、「から好し」のメニューが「ガスト」店内でも注文できる店舗のことを指します。10月末時点で全国195ヵ所に展開されており、店内飲食、デリバリー、テイクアウトの全てに対応しています。
しかも、通常のガストに比べて総売上が8%増、デリバリー売上が5%増、テイクアウト売上が70%増という驚異的な成果も上げており、今年12月末には480店、来年3月末には1,130店と急速に拡大していく計画です。
一口に「大量閉店」と言っても、その実態は、業容を最適化しながら利益を最大化する「スマート化」、非常に戦略的なものであることが分かると思います。