はじめに
高性能モデルの快適な走り心地
さっそく軽量ドアを開け、RZハイパフォーマンス専用となるプレミアムスポーツシートに体を納めます。ウルトラスエードと合皮が組み合わされたバケットシートは、ガチガチに角が立ったスポーツシートとは違い、なんとも座り心地がよく、快適です。さっそくクラッチを踏み込み、エンジンスタートボタンを押すと、少々頼りなげなサウンドと共に1.6Lの3気筒ターボエンジンが目覚めます。最近乗った何台かのハイパフォーマンスカーのエンジン音と比べると、ずいぶんと控えめです。周辺環境に及ぼす影響を考えると、このエンジン音の設定は十分に共感できます。
シフトを1速に入れ、いよいよスタートです。こうした高性能モデルにありがちな、気難しさなどは少しも感じることなく、あっけないほど簡単に発進します。路面の凸凹も、細かな振動としては伝わってきますから、ガッチリとした骨格の強靱さやサスペンションの硬さは低速でも十分に感じます。かといって不快さがあるかといえば、それはほとんど感じなのです。ごくごく普通の乗り心地で街角を駆け抜けていきます。ステアリングの操作感も軽いし、クラッチの踏み込みに格段の踏力がいるわけでもありません。なんと快適に、何気なくノーマルのヤリスのように使えるのです。
ところがそんな表情が一変したのは首都高速に乗り込んだときです。合流車線から一気に加速して本線に入る。強烈な加速感を伴って、苦もなく本線に合流し、そこからは楽しさが炸裂します。曲がりくねった環状線のコーナーをピタッと張り付くように、そして切れ味鋭く駆け抜けていきます。その感覚は温めたナイフでバターの表面をなぞるように自然なもので、なんとも気持ちいいものです。路面の大きなうねりや路面の繋ぎ目を通過してもボディはミシリともいいません。ハイパワー4WDの駆動力とハイグリップタイヤのお陰もあって、なんとも安定したコントロール性を披露してくれます。
さらに気持ちがいいのはコーナー手前のブレーキングです。実に自然に、しかし確実にグググッと車速を落としてくれる制動能力の高さは本当に快適で安心です。ストレス少なく高性能を楽しめるというのは優れたスポーツカーの証だと思います。こうなると、どんどん楽しくなっていきますが、このまま調子に乗っているとオービスのお世話になるかも、というところで気分にもブレーキを掛け、高速から一般道へ。ここからまた、ごくごく優しいヤリスの表情を取り戻してくれます。この瞬間、本物のスポーツカーを日常使いすることが、どれほど贅沢で魅力的なものかということを改めて考えさせられました。
さらにWRCのレギュレーション変更により、2022年からはハイブリッドシステムの導入が行われることになります。そうなると純粋にガソリンエンジンで楽しめるGRヤリスはこれが最後となれば、希少性も出てきての456万円です。クルマ好きにはちょっぴり悩ましい存在となるかもしれません。