はじめに

株価水準チェック手段 その2:PBR(株価純資産倍率)

これまで株価の代表的な尺度であるROEを見てきましたが、低下場面では株価と連動しないため、それだけでは足元の株価水準が適正であるかの検討は難しいことがわかりました。そこでもう1つの代表的尺度を使ってみます。それがPBR(株価純資産倍率)です。

PBRは株価÷1株当たりの純資産で求められる指標です。1株当たりの純資産は解散価値とも言われます。もし企業が廃業したときに会計帳簿上、株主に残る会社の財産です。PBRが1倍を上回るということは、分子の株価が分母の解散価値より高いわけです。企業が将来に向けて高い利益を上げて足元の解散価値を上回って成長していくと期待されているからと言えます。

このPBRはROEと合わせて捉えると、伊藤レポートに関連した重要な議論のテーマとされています。この関係を表したグラフを見てみましょう。

この散布図グラフは、日経平均株価の予想ROEとPBRをそれぞれ、横軸と縦軸でプロットしたものです。なので時間の経過はここではわかりません。例えば、直近月末の2020年11月はROEが4.9%、PBRが1.23倍ですから、グラフのなかの大きな黒点に位置しています。また、ROEが8%以上の企業は赤い点で示しています。
 
赤い“ROEが8%以上の企業”を見ると、PBR算出式でROEと掛け合わされている値が0.36となっています。これはROEが1%上がると、PBRも0.36倍分上がることを表します。PBRは純資産に対してどれだけ株価が買い上げられるかを見るものですから、ROEが1%上がると、純資産の0.36倍分株価が買い上げられることになります。

一方、“ROEが8%を下回る企業”を見ると、PBR算出式でROEに掛け合わされている値は-0.01とほぼゼロです。これは8%を下回るとROEの水準とPBRがほとんど関係していないことを示しています(より専門的には、決定係数が0.03とゼロに近いという点からも裏付けられます)。

実は、この論点は前出の“日経平均株価のROE”とも関係が強いものです。ROEが8%を上回ってくると、株価がROEと連動して動くのですが、下回ると株価とROEとの関係が薄れるということをPBRを使って説明しています。

結果、足元の日経平均株価は妥当なの?

ここまでの検証は、今年度予想のROEを使って計算しました。では、来年度の日経平均株価採用銘柄の増益率が40%程度の予想になると仮定されるケースもあるので、その値を入れてROEを計算するとどうでしょうか。結果は6%台となり、8%には達しないようです。

それなら、8%未満でのPBRを算出すると、その平均は1.12倍となります。そこで、この値を使って、足元の株価水準を検討しましょう。次に紹介する計算は難しく思われるかもしれません。ですから、そういう方法もあるのかという程度で捉えてもらって十分です。

先ず、日経平均株価の1株当たりの純資産は12月10日の日経平均株価2万6,756円÷PBRの1.19倍から求めると2万2,484円です。一方、日経平均株価の1株当たりの予想純利益は1,070円(12月10日の日経平均株価2万6,756円÷今期予想PERの25倍)です。

足元の1株当たりの純資産にこの純利益を足して、今期予想の1株当たり配当額となる462円(12月10日の日経平均株価2万6,756円×今期予想配当利回りの1.73%により算出)を引いた値が今年度末予想の1株当たりの純資産2万3,092円です(予想1株当たり純資産=1株当たり純資産+予想1株当たり利益―予想1株当たり配当)。

この2万3,092円に平均PBRの1.12倍をかけると2万5,863円となり、日経平均が概ね2万6,000円に近い水準となります。足元の株価水準とほぼ同じです。

気が早いかもしれせんが、来期予想増益率を先ほども使った40%と仮定して1株当たり来期予想の1株当たり純資産を求めて、日経平均株価を試算すると2万8,000円台となりました。足元の日経平均株価は「来期予想の純資産評価までを織り込みつつある相場」と考えることもできるでしょう。

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