はじめに

執事のような走り出し

さっそく鍵を受け取り、フロントドアを開けます。わずかにクリームが混じったような白いレザーが張り巡らされ、なんとも華やか室内が目の前に広がります。そして「なぜ俺はジーンズなんかで来てしまったんだろう」と後悔しました。以前、尊敬する故・徳大寺有恒さんと一緒にロールスに乗ったときのことです。「ロールスに乗るならジーパンはいかん。レザーのパンツも良くない。やっぱりツイードかシルクに限る」と冗談交じりに叱られたことがありました。

確かに、その時の徳さんはツイードのコートを羽織っていました。さらに、そのコートの上からシートベルトをしながら「冬のロールスはこうやって乗るものさ」とも。なんとも楽しい徳さんとの思い出なのですが、そうした儀式のようなものが似合うのもロールス・ロイスなんです。

実はジーパンや金具の付いたファッションで、せっかくのロールスのレザーを痛めるのは忍びない、という理由もあるそうです。さらに白色などは衣服の色落ちであっと言う間に汚れます。これもやはり興ざめということもあるようなのです。それなのに今日は、そうした教えにすべて反するようなスタイルで乗り込んだわけです。

すでに乗り込んだ時点で少々疲れましたが、めげずにエンジンスタートボタンを押します。するとファントムやカリナンと同じ6.75LのV型12気筒エンジンが驚くほど静かに目覚めます。ツインターボで最高出力571馬力、最大トルク850N・mというエンジンの目覚めとして拍子抜けするほど静か。スペックだけを見れば相当に凶暴なはずなんですが、そんな素振りは微塵もありません。

艶やかなセンターコンソール。操作感がソフト

これならば閑静な住宅街の早朝にスタートしても、ほとんど存在が気付かれないほどかもしれません。ここでステアリングから生えている、なんとも頼りなさそうに細いシフトレーバーをドライブに入れます。かすかにシフトショックを感じる程度で、本当に何から何まで操作感がおしとやかです。

アクセルをほんのわずか踏み込んでスタートします。静々と、まさに執事の所作のように穏やかさで加速していきます。エンジン音も走行音もほとんど聞こえてきません。571馬力のパワーを単に速さや爆音という形で誇示するのではなく、静かでしとやかにという表現方法があることを、改めて納得できるのです。100kgもの遮音材を使用しているという静かさがキャビンを支配していますが、クルマはちゃんと交通の流れに乗って加速していくのです。

リアドアは前開きとなり、乗り降りで体も少ないひねりで乗り降りできます

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