はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
3年ほど前に投資助言会社の紹介で海外のヘッジファンドに投資し、今年現金化しました。助言料はもちろん支払っています。結局ヘッジファンドの成績はマイナスでした。しかし、為替差益でトータルではプラスでした。取引のプロセスは以下になります。
1.銀行から海外送金(円高)
2.ファンド購入
3.ファンド清算(成績マイナス)
4.ファンドから外貨預金への送金
5.外貨預金から円預金に(円安)
利益が確定したのは5のタイミングになるのですが、この場合、確定申告するためにはどの書類をそえて、どの税率で申告するのが正しいのでしょうか?
(30代前半 既婚・子供なし 男性)
野瀬: ファンドの申告の方法は、海外のファンドを直接購入するか、日本の証券会社を通して間接的に投資するかの2種類の方法があります。
海外口座での投資には注意が必要
質問者の方の場合、プロセス1~5を拝見すると、海外に口座を持ち直接的に投資をしていると思われます。
このような直接的な投資の場合で、利益が「確定」したときには確定申告をする必要がありますので注意が必要です。
そして、この確定申告の方法は実は投資商品によってさまざまです。
外国で源泉徴収がされるケース・されないケース、損失の繰越が認められるケースとそうでないケース、雑所得とみなされるケースと譲渡所得とされるケースなどです。
どんどん進化していく投資手法に対して税制が追いついていないといったほうが正確かもしれません。ここではケースごとに確定申告の原則を押さえておきます。
(1)源泉徴収されるか・されないか
質問者の方は推測するに日本の居住者ですので、原則としては日本の税務当局に納税するはずです。
私の住んでいるインドなどではよくある話なのですが、明らかに日本の居住者であっても税務当局がインド居住者と同様に源泉徴収を求めるケースが少なからずあります。
こういったケースでは税の二重払いを避けるために、確定申告時にしっかり外国税額控除を受けられるようにする必要があります。
通常の必要書類に加えて「外国税額控除に関する明細書」とその証明書が必要になりますのでご留意くださいませ。こういった手続きに慣れている日本の会計事務所は少ないですので、そのあたりを専門としている事務所に頼むとよいでしょう。
(2)損した場合は繰り越しできるか
これはファンドの内容によります。場合によってはファンドの目論見書を読む必要があるのですが、基本的な考え方は、外国の証券取引所で取引されているようなオープンなファンドであれば損失の繰越は可能ですが、そうでなければ日本の税務署は繰り越しを認めない……というものです。
ただ日本の個人投資家であれば、ほとんどは証券取引所を通して購入されていると思いますので、繰越可能だと考えて間違いありません。
(3)総合課税なのか・分離課税なのか
課税の区分ですが基本的に外国のファンドですので、日本のファンドと同様、分離課税と考えて税率は20%となります(復興税は考慮せず)。
その気がなくても脱税に見られることも
まず海外での直接的な投資であれば日本の税務当局にバレないと思って、「申告しなくてもいいのでは?」と思う人が少なからずいるのですが、それは間違いです。
確かに税務当局は、皆さんが海外でどんな投資商品を買っているかまでは調べていませんが、海外からの送金についてはしっかりチェックしています。
海外投資の場合、日本国内での投資と異なり源泉徴収されないケースが多いのですので、脱税するつもりがなくても結果的に脱税のように見えてしまうこともあるのが現状です。
痛くもない腹を探られないように、しっかりと確定申告しましょう。
保管する必要がある書類は4点
また、こういった海外での直接的な投資の場合、日本国内での投資と異なり、必要とされる書類が一定ではないのが現状です。国によってもらえる書類が違うのです。
ですから、あとからなにを要求されても大丈夫なように投資に関する書類はひと通りしっかり保管しておきましょう。日本の証券会社のように再発行を依頼してすぐに送ってくれるということも期待できないからです。
少なくとも以下は手元に残しておいてください。
・目論見書
・契約書
・購入時売却時の外国銀行の入出金記録
・海外送金記録
・取引報告書
特に換算レートを確定する必要がありますので、日付を追えるようにしておく必要がある点は注意が必要です。