はじめに
それぞれが大切にしていること
まずは選手登場から。
青コーナーはさわかみ草刈氏。「若造には負けない」と赤コーナー、ひふみ藤野氏も牽制。本格的なグローブをつけたファイティングポーズで会場を沸かせます。
“直接対決”の前には、まず、それぞれの会社が大切にしている思いが語られました。
大学卒業後、すぐ投資の世界に飛び込み、運用経験27年という経験を誇る藤野氏。「資本市場を通じて社会に貢献します」という理念を掲げ、レオス・キャピタルワークスを立ち上げてから14年が経ちます。
近年、急成長を遂げ、運用資産残高は2017年4月末時点で2,959億円に。“いま一番気になる”ファンドとして注目されています。
そんな騒がしい周囲の状況に浮かれることなく、「これまでは半分くらいしか力が出せていなかった。やっと我々の本領を発揮できる状況が整ってきた」と藤野氏は冷静に分析します。
そして、「実は今、悔しくてしょうがないことがある」と続けた藤野氏。それは、運用資産残高が小さすぎて東芝メモリが買えないこと――。
「日本には個人資産として900兆円もの預貯金が眠っているのに、国内で買い手がつかないのはとても残念なことである。大きな可能性を持ち、日本でも成長している分野をしっかりと支援していける存在になりたい」(藤野氏)
苦しい時期がありながらも、今、ファンドが成長できたことで「これから運用のおもしろさ、楽しさを世の中に提案できる力をやっと手に入れることができた」と話します。
しかし、藤野氏いわく「日本には成長している会社だらけ」なのに、世間には“日本経済は頭打ち”というムードが漂うのはなぜか?
「それは大手企業が停滞しているから。中小や地方のがんばっている企業に投資することで、その会社も成長し、お客さまのお金も増やすことができる」(藤野氏)
人の可能性に投資する
ひふみが行うのは「人を見る投資」。
私たち人間には誰しも長所と短所があるように、会社も同じで「不完全なもの」である。人が集まってできている会社なのだから、「がんばりや情熱、ハラスメント、汗、涙、サボり……このようなものが全部くっついた総合体が会社である」(藤野氏)。
つまり、企業が成長できるかどうかは、すべて関わる人次第ということ。
経営者や社員はいきいきと働いているのか? 自分の会社が好きか?
ある調査によると、60%の人が「今、自分が働いている会社が嫌い」と答えるのが日本の現状だそうです。
そんな“働くことをよく思っていない”人が多い企業が成長できるはずがない――。
そのため、藤野氏が投資したいと思っているのはシンプルに「社員が自分の会社を好きな企業」。アメリカの調査会社によると、社員の幸福度と会社の業績は極めて連動しているというレポート結果もあります。
もしラーメン屋を経営したら?
とはいえ、もちろん、やみくもに投資を行うわけではありません。まずは、「コンスタントな収益」を出している企業を選別。
業界全体の勢いに乗って、一時的に伸びている会社ではなく、地味だとしても、しっかりとした伸びるしくみを持っている会社を探し出します。
そして、2番目に重視しているのは「オーナーシップ」。
その後、語られた「経営者の能力をどう見抜くのか」という藤野氏の話に会場は大きく納得します。
「会社の社長と話すときに考えているのは、『この人が、もしラーメン屋を経営したとすると繁盛店になるのか?』ということ。接客、製造、管理、商品開発、人のマネジメント、経理、マーケティング……ラーメン屋の経営には総合力がなくてはなりません。これらを兼ね備えている人は、人気のお店を作り出すことができる」(藤野氏)
しっかりと足で稼いだ情報ともとにした運用と、市場に柔軟に対応することで、これからもひふみは成長を目指します。
長期投資でいい世の中づくりを
続いて、さわかみ投信・草刈氏からは「長期投資でいい世の中づくり」をしたいという創業時からのビジョンが語られました。
1996年に独立系直販型投資信託会社として誕生した同社は、徹底的に長期投資にこだわり続けてきました。
税金や社会保険料など、生活コストは上がり続け、実質的な家計所得は下がり続けているのが現代。
こんな時代に生き、将来に備えるためには「お金に働いてもらうこと」が必要です。そのお手伝いをしたい、というのが同社の創業者・澤上篤人氏の思いです。
といっても、「長期投資でいい世の中づくり」とは一体どういうことなのでしょうか?
それはとてもわかりやすいロジックです。
「一般の方々に、『経済的な余裕』が生まれ、将来の不安から脱却すると、『心理的余裕』ができて消費を我慢することがなくなる。すると、経済全体にプラスの効果が出る」(草刈氏)
変わることを恐れない姿勢
また、創業時から変わらない理念を持ち続ける一方で、変化を恐れないのも同社の特徴です。
澤上篤人氏から、2代目の最高投資責任者を引き継ぎ、現在は「集中投資」という方針に方向転換。パフォーマンスを大きく向上させてきました。
割安な企業に投資する「バリュー投資」の戦略を取り、暴落時に購入できるよう現金比率をほかのファンドと比較して高く保つという特徴もあります。
投資哲学としている「わたしたちの生活に欠かせないものを提供する企業に投資する」という思いをもとに、今後の人口動態にも注目。高齢化社会に活用されるであろう、ロボットやAIといった最新テクノロジーにも目を光らせます。
今後は日本企業だけでなく「海外企業への投資も検討している」と明かします。