はじめに

厳かな料亭や高級レストランなど、普段はあまり行き慣れない場所が指定されることも多いビジネス会食。そんな接待の場でどのように振る舞えば相手に好印象を与えられるのか気になるという社会人の方は多いのではないでしょうか?

“食事マナー”というと堅苦しい印象も受けますが、もしかするとその場でのあなたの言動が仕事の成果を左右する可能性も――。

そこで今回は、ビジネス会食やお酒をともなう宴席での振る舞い方のポイントや、意外と知られていない食事マナーについて、カリスママナー講師・西出ひろ子さんに教えていただきました。


意外と知らない「和食」のマナー

「取引先をもてなす接待やビジネス会食の場では、料亭や高級レストランで会席料理やフランス料理をいただくことも多いかと思います。とくに若いビジネスマンの方は、なれない経験に戸惑うことも多いでしょう。そして実は、みなさんが普段なにげなく行っている食事法には、“マナー違反”となることがたくさんあるのです」

こう語るのは、名だたる企業300社以上のマナーコンサルティングを行い、70冊以上の著書を持つマナーコンサルタントの西出ひろ子さん。

まず、料亭での会席料理など「和食」をいただく際に、気をつけたい“NGマナー”の例を挙げていただきました。

箸を器の上に置くのはNG

「お箸は、箸置きやお敷きの縁に箸先をかけて置くようにしましょう。お箸を器の上に乗せる“渡し箸”は、食べる側の作法としてはNGです。有名なマナー違反ですが、なにげなく行っている方も多くいらっしゃいますので、改めて意識なさるとよいでしょう」

お椀の蓋を裏返して戻すのはNG

「和食の場合、手に収まる大きさの器であれば、持ち上げてかまいません。蓋つきのお椀をいただく際には、お椀を利き手とは反対の手で押さえ、利き手で少しひねるようにして蓋をずらして取ります。

蓋裏のしずくを落としたら、両手でお敷きの右ななめ上外か、お椀の右斜め上に置きましょう。

お椀をいただき終わったら、蓋を元通りとなるように戻します。裏返した状態で蓋をお椀に戻すのは間違いです」

魚をひっくり返すのはNG

「焼き魚は、まず上身の背骨の上から一口ずつ食べ、次に背骨より下の部分を食べるのが正しいいただき方です。上身を食べ終えたら、頭を押さえ背骨を外してから下身をいただきます。骨を外さずにひっくり返したり、骨の間から身を食べたりするのはマナー違反です」

「お刺身の盛り合わせの場合は、左手前から時計回りにいただくのがマナーとされています。そのため、味の淡白な白身が左手前にあり、時計回りに進むにつれて、赤身や脂身の多いものが盛られていることが多いです。

わさびは、香りを楽しむために醤油には溶かさず、直接お刺身につけていただきましょう」

マナーとは相手の立場に立つこと

このように和食ひとつをとっても食べ方にはさまざまなマナーがありますが、西出さんは次のようにも語ります。

「本来、どのように食べるかどうかはその方の自由だと思います。しかし、なぜこのように『こうして食べるのが正式』『これはマナー違反』などと言われるかというと、マナーとは“相手の立場に立つこと”だからです。

ご自身の好きなように食べるということは“自己中心”となり、“相手中心”の食べ方にはなりません。

マナーとされていることは、一概に『どれが正しい』と言い切れないことも多く、その時の状況や相手に応じて所作や作法は変わるものです。

たとえば、お好みであれば、わさびをお醤油に溶かしても問題ありません。しかし、もしお店の料理人の方が、『わさびの風味をぜひ味わってほしい』と思っていれば、お魚に直接つけて食べていただいたほうがお相手にとってはうれしいですよね。その心遣いを“マナー”と呼ぶのです」

「お酒」で失敗しないために

マナーの“本質”について教えていただいた上で、次の項目をみていきましょう。

ビジネス会食の場では、時にお酒を交えた宴席になることも。この際もできるだけ好印象な振る舞いをしたいものです。

「お酒の席でも、相手の嗜好などを優先した上で振る舞うことが重要です。会食は、お相手とのコミュニケーションがより親密になる貴重な場です。お酒を勧められるままにいただき、酔いすぎてしまっては、他人への目配りや配慮の余裕がなくなり、美しく振る舞うことができなくなります。自分の適量をわきまえ、丁重にお断りすることも大切です。

また、会食の席では、同席している相手への気遣いだけでなく、お店の方への感謝や、ほかのお客様への配慮も忘れずに。そうすれば全体として自然なよい振る舞いになります」

では、お酒に関するNG行為も覚えておきましょう。

ビールの継ぎ足しはNG

「お相手の空いたグラスを目にとめ、お酌して差し上げるのはよいマナーですが、実は注意していただきたいポイントがあります。

ビールは『注ぎ足すと味が落ちる』と言われていますので、お酌はグラスが空になってから。残り少しであれば『ビールはいかがですか?』と声をかけ、お相手の方が飲み干すのを待ってからお酌をしましょう」

ナプキンでグラスを拭くのはNG

「女性の場合、グラスに口紅が付いてしまうことがありますが、その際は親指の腹の部分でグラスをそっと拭いて、その指をナプキンで拭います。

直接ナプキンやハンカチでグラスを拭くと、グラスを傷つけてしまう恐れがありますので避けましょう。口紅がグラスに付かないように、前もってハンカチなどで軽く口元を押さえておくことも大人の女性のマナーですね」

無理に飲むのはNG

「これ以上飲んだら酔ってしまうと感じているときは、無理にいただかず、丁寧にお断りすれば問題ありません。

相手からお酌いただきそうになった場合は、グラスや盃の上に手をかざして『ありがとうございます。もう十分に頂戴しました』とお伝えし、『○○さん、もう一杯いかがですか?』と逆にお酌をして差し上げると、断ったことがすぐに打ち消され、余韻が残らず効果的です」

“目配り、気配り、心配り”のおもてなし精神

さて、ここまで和食とお酒の席で注意したいさまざまなマナーについて教えていただきましたが、最後に西出さんはこう付け加えます。

「恥をかかない振る舞いをすることに集中するあまり、こわばった表情で会食をされている方を多く見かけます。

緊張するお気持ちはよくわかりますが、好印象を与えるためには、『みなさんと一緒に楽しく、お酒やお料理をいただいています』ということがしっかり伝わる表情でいることがなによりもまず大切です。

そして常に相手の方に意識を持ち、楽しんでいただくためにはどうすればいいのかを考え、“目配り、気配り、心配り”ができる、気遣いのおもてなしの精神を身につけましょう。

そのためにも基本のテーブルマナーを一通り習得されておくと、安心して周囲に意識を向けることができる心の余裕ができると思います」

『かつてない結果を導く超「接待」術』 西出ひろ子 著


接待なんて昔の習慣? いえいえ、じつは今や密かに大手企業では、接待力を磨く研修が増えています。海外からのお客さんも増えていく今後、「しきり」力や、「もてなし」力は、ビジネスマンにとってますます問われることでしょう。昔、接待を経験した40代50代、でも今から部下に教えるのには自信がない。上司に接待(会食も含め)のしきりを命じられても、何からどうしたらいいのか、何が失礼かもわからないビジネスマンたちへ。ビジネスの総合力とも言える接待力を磨く1冊。事前準備から当日の流れ、そしてアフターフォローまでとことんお教えします。

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