はじめに

17世紀にオランダで起きたチューリップ騒動は、経済全体にはそれほど深刻なダメージを与えませんでした。国家を揺るがすほど深刻なバブル崩壊を歴史上はじめて経験したのは、フランスです。

18世紀初頭、稀代の詐欺師ジョン・ローが引き起こした「ミシシッピ事件」がそれに当たります。


金本位制の成立と終わり

ジョン・ローの逸話に入る前に、そもそも「お金とは何か?」を考えておく必要があります。

歴史上長きにわたり、お金とは何か貴重な物体――美しい貝殻や貴金属――だと考えられてきました。日々の生活に必要なものを交換するための媒体として、そういう貴重な物体を使っているのだ、と。

この思想は、20世紀後半まで続きました。たとえば明治時代に発行された紙幣には、この券を銀行に持っていけば同額の純金と交換できると書かれていました。日本だけではありません。世界中のあらゆる国で、紙幣は「純金の代わり」として使用されていました。このような通貨の形態を金本位制と呼びます。

1945年にはアメリカのブレトンウッズという町に先進国の首脳が集まり、第二次大戦後の通貨について会議を行いました。結果、アメリカ・ドルを純金と交換できるようにして、他国の通貨はドルと交換できるようにする――という変則的な金本位制が確立しました。いわゆる「ブレトンウッズ体制」の成立です。

ところが現在では、紙幣を純金と交換することはできません。

そもそも金本位制には、重大な弱点があります。経済が発展して、商取引が盛んになるほど、たくさんの貨幣が必要になります。ところが金本位制のもとでは、世の中を出回る貨幣の量は「鉱山からどれだけ金が採掘されたか」に左右されます。第二次大戦後の先進国が経験した猛烈な経済成長のもとでは、金本位制では純金の絶対的な量が不足してしまうのです。

1971年、米国大統領リチャード・ニクソンは、純金とアメリカ・ドルとの交換を停止すると発表しました。ブレトンウッズ体制は終わりをつげ、金本位制は過去のものになりました。

お金の本質的価値

現在の私たちは、いかなる貴金属の裏付けもない紙幣――不換紙幣――を使っています。1万円札にその価値があるのは、1万円ぶんの純金と交換できるからではありません。私たちがその紙切れに「1万円の価値がある」と信じているから、1万円札には価値があるのです。まるで禅問答みたいな話ですが、私たちはそういう経済体制のもとで暮らしています。

しかし本質的な部分では、金本位制も不換紙幣も同じです。

実は歴史上ほとんどの時代で、金属製の硬貨の額面額は、原料の金属よりも高額でした。1ドルの金貨に使われている純金は、1ドル以下の価値しかなかったのです。考えてみれば当然で、もしも1ドルの金貨に1ドル以上の純金が使われているとしたら、金貨として使うよりも、鋳つぶして売り払ったほうが得です。

日本の1万円札を印刷するコストは、わずか数十円だといいます。同様に、金貨1枚の「原価」は、金貨そのものの価値よりも安かったのです。私たちが「1万円だ」と信じているのと同様、昔の人も「1ドルだ」と信じていたからこそ、1ドル以下の価値しかない金属の円盤を1ドルとして使用できたのでした。

これが「お金とは何か?」という疑問への答えです。

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