はじめに

増え始めている「株で役員報酬」の会社

6月10日、「日経新聞」の一面に「株で役員報酬」という制度を導入する企業が増えているという記事が載りました。三菱UFJ信託銀行が調べたところ上場企業のうち230社がこの制度を導入しているそうで、それが来年には500社に増えるそうです。

よく知られるストックオプション制度とは違い、企業の業績向上に効果があるというのですが、どこが違うのでしょうか? 簡単に解説してみたいと思います。

記事の中では、リクルートホールディングスの制度が例として紹介されています。リクルートの制度では、役員に対して報酬となる株式は「役員の退任時に付与」。役員として在任中の業績貢献度に応じて、付与される株式数は増減するそうです。

退任時に株式が付与されるこの制度、何がいいのでしょうか?


ストックオプションは短期の利益向上に役員を走らせる

一番のポイントは、役員が報酬で得た株式を売却できるのが退任後だということでしょう。ここがストックオプションとの大きな違いです。

ストックオプション制度では、在任中に得たオプションについて、在任中でも株価が一時的に権利行使価格よりも上回ればオプションを行使して利益を得ることができます。ですから役員へのインセンティブは、短期的に業績が上がる行動をとって利益をかさ上げするといった行動が起きやすくなります。

有名な例では、日本マクドナルドが以前、原田社長時代に直営店の権利を売却してフランチャイズに移行したことがありました。自社店舗をどんどん売却していくので、一時的に売却益があがり、日本マクドナルドの利益は増えました。

一方で、直営店を減らしたことで本部の求心力が弱まり、店舗のサービスレベルが低下したと後になってから問題が露呈するようになりました。ストックオプションが与えられるとこのように「次の代になると問題が起きるが、今の業績がよくなる」経営判断をトップが下す可能性が増えるのです。

株式を報酬で与えると未来に向けた投資が必要になる

一方で、役員退任後にならないと株式が手に入らない報酬制度の場合は、役員が自分の利益を増やすためには長期的な投資をしなければならなくなります。

今、利益に貢献する施策よりも、5年後、10年後に花開く新しい事業の芽をたくさん蒔いて育ててということをしておかないと、自分が退任した後に利益が手に入らないのです。

実は、役員にとってはこちらの方が大変な仕事です。自分がよく知っている既存事業の中で目先1~2年の利益を上げるための手法は役員になれる人材ならだいたいは得意技としていくつも方法論を持っているものです。一方で、そのような既存事業が寿命を迎えた後に花開くような未来への投資となると、誰もが手探りでどうしていいのかわからないものです。

出会い系でトップグループに食い込んだリクルートの戦略とは?

先日、リクルートの役員の方から面白い話を伺いました。リクルートには「ゼクシィ」という非常に利益率が高い結婚情報誌があるのですが、この事業、少子高齢化の日本では今後、徐々に市場が縮小化することが避けられないそうです。

ところがリクルートではこのトレンドを見据えて、出会い系のサービスを新たに立ち上げているのです。

出会い系といっても、「恋活(恋人をみつける活動)」と「婚活(結婚相手をみつける活動)」という形で、最終的には結婚が決まって「ゼクシィ」の売上にも貢献するような結婚人口を増やす活動なのですが、この領域に投資を集中的に行い、いつのまにか日本の出会い系のビッグ4の一角にリクルートが食い込んでいるというのです。

長期のインセンティブを役員に与えれば、企業が長期的に成長するような投資が増え、結果としてその企業の10年後の新しい柱が生まれます。そう考えると「株で役員報酬」を導入している企業は買いだと言えるかもしれません。

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