はじめに

昨年末の「税制改正大綱」の発表で、生前贈与の場合でも相続と同様に課税されるように、税制改正を積極的に進めていく方針が示されました。詳細やタイミングはまだ不明ですが、今から対策できることはあるのでしょうか。


加藤晴美さん(仮名:68歳)は3年前に最愛のご主人を亡くし、現在は自宅で一人暮らしをしています。長男(42歳)、長女(38歳)はそれぞれ結婚して近くに住んでおり、最近は孫の顔を見ることが晴美さんの唯一の楽しみです。

晴美さんには、ご主人から相続した財産が1億円ありました。遺産の内容は自宅の不動産が2,000万円と預貯金が8,000万円。急死だったこともあり、ご主人は相続税に対する備えをしていた訳ではありませんでした。ですが、「相続税の配偶者控除」という特例を受けることができたため、晴美さんは税金を納めなくて済みました。

しかし、相続税の申告をお願いした税理士によると、このまま何も対策をせずにいると、晴美さんが亡くなった際には多額の相続税がかかる、とのこと。そしてその税理士に、預金の「生前贈与」をしておいたほうがよいとアドバイスを受けました。

しかし、二人の子どもを一生懸命に育て上げ、これからは孫の顔でも見ながら余生を一緒に楽しもうと話していたご主人に先立たれた晴美さん。寂しさのあまりその当時は何もする気になりませんでした。そして気付けば3年が経ってしまいました。そろそろ考え始めなければと、書店で相続税対策が特集された雑誌を手にしたとき、「生前贈与による相続税対策ができなくなる」という記事を目にしたのです。

そもそも生前贈与って?贈与税って?

そもそも生前贈与とは何でしょう?

「贈与」と聞くと、不動産などある程度まとまった財産を仰々しく渡すイメージを持っている方が多いかもしれません。実は「贈与」は、渡す側の「あげます」、もらう側の「もらいます」という意思表示だけで成立します。法律上は口約束でも構いません。

例えば誕生日やクリスマスに渡すプレゼント、バレンタインデーのチョコレート。これらはすべて贈与なのです(なかには「もらいます」と言ってももらえないケースもあるかもしれませんが……)。ただし、すべてが贈与税の対象かというとそうではありません。

贈与税は1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から、「基礎控除額」といわれる110万円を差し引いた残りの額に対して、「もらった人」に課税されます。したがって、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下の人には贈与税はかかりません。日常的なプレゼントでは贈与税がかかることは少ないかもしれませんね。

逆にいえば、年間で110万円を超える財産を受け取った人は贈与税の申告をし、贈与税を納める必要があるということです。また、贈与は誰にでもすることができます。相手は家族だけとは限りません。友人やお世話になった人にも贈与することができます。

なぜ生前贈与が相続税対策になるの?

では、どのような理由で生前贈与が相続税対策になるのでしょうか?

実は相続税も贈与税と似たような税金です。両方に共通するのは、「誰かからタダで財産をもらったときに、もらった人にかかる税金」ということ。生前にもらえば「贈与税」、亡くなった際にもらえば「相続税」です。そして、どちらも「もらった人」が税金を払います。

例えば、晴美さんが二人の子どもに100万円ずつお金を贈与した場合、子どもたちがそれ以外に贈与を受けていなければ、それぞれのもらった財産は、前述の贈与税の基礎控除額である110万円以下ということになります。基礎控除以下であれば、その200万円に対して贈与税はかかりません。

では、200万円を贈与しなかったらどうなるでしょう? その200万円は晴美さんの財産1億円の一部として子どもたちに相続されます。そして、その200万円に対して30万円の相続税がかかるのです。これは相続税と贈与税の計算方法の違いによるものです。似たような税金でも計算方法が違うのです。

生前贈与をすれば200万円に対する税金は0円、生前贈与しなければ30万円。細かい説明は省略するとして、このケースでは生前贈与することで実際に相続税が安くなります。つまり、生前贈与が相続税対策になるのです。