はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

不動産取得税の控除に関する質問です。10年前に新築でマンションを購入しましたが、住民票が移動できなかったため自宅の不動産として控除を受けてきませんでした。昨年5月に住民票を移動したため、今回の確定申告から何年間分の控除は可能でしょうか?
(50代前半 既婚・子供1人 男性)


野瀬:「住宅ローン控除を過去に遡って受けたい」というご要望は少なくありません。享受すれば金銭的メリットが多いこの制度、実は適用を忘れているケースは多いのです。

住宅ローン控除は遡ることができる?

では実際問題、「過去に遡って」この恩恵を受けることはできるのでしょうか?

結論からいいますと、条件付きでできる……となります。

まず住宅ローン控除を受けるために必要な手続きを整理し、そこから「どうすればよいのか」を考えてみましょう。

住宅ローン控除にはさまざまな要件がありますが、今回は手続きだけに絞ってお話します。

<初年度>
初年度のみ確定申告が必要です。住宅ローン控除の計算明細書を作成し、確定申告の第一表とともに税務署に提出する必要があります。

<2年目以降>
2年目以降は、税務署から住宅ローンの控除申請書が届きますので、必要事項を記載して会社に提出します。これで手続きは完了です。確定申告をする必要はありません。

忘れていた住宅ローン控除を取り戻す方法は?

さて、ここからが本題です。これら住宅ローン控除の手続きを忘れていた場合は「更生の請求」の手続きを受けることで過去の税額を訂正することができます。平成23年に税制改正が行われ、過去5年に遡ってこの手続きを行うことができるとされています(それ以前に申告期限が到来しているものに関しては過去1年まで)。

ですから、住宅ローン控除の申請手続きを忘れていた人も最大過去5年以内であれば、本来享受できるはずだった恩恵を取り戻すことができることになります。

ただし、質問者の方の場合、これは不可能です。理由を以下に述べます。

(1)居住の要件を満たしていない

まず、こちらの国税庁のサイト「転勤と住宅借入金等特別控除等」 を確認してください。

国税庁は住宅ローン控除の要件として「取得日」から6ヶ月以内の居住を挙げています。質問者の方の場合、住民票を移すのに10年かかっているので、そもそも大前提としてのこの要件を満たしていないことになります。

(2)5年以上遡っての「更生の請求」はできない

また先ほどご説明しましたように、更生の請求は最大で過去5年までです。さらにこの制度は平成23年にできたものですので、それ以前に申告期限が到来していた質問者の方の場合、仮に住宅ローン控除の要件(上記1)を満たしていたとしても、遡ることができるのは最大で過去1年分です。

そもそも確定申告すべきだったのは不動産を取得した10年前ですので、この点からも要件を満たしていないことになります。

(3)該当年に「確定申告」をしていた場合、そもそも「更生の請求」もできない?

こちらのサイト「国税不服審判所」もご覧ください。

いろいろと難しいことが書いてありますが、要は「住宅ローン控除に関しては過去の確定申告のなかでその手続きを忘れていたとしても『更生の請求』は受け付けないよ」という内容です。言い換えれば「確定申告そのものを忘れていたのであれば、訂正できるけれど、確定申告をすでにしたのであれば、そこに今さら住宅ローン控除をつけたすことはできない」ということです。

これは平成19年に税務署と納税者で争いになった時に出された結論で、行政の言い分としては「そんなものを認めたら行政側の手続きが大変になる」という、納税者側としては納得しにくいものになっています。

これらの点を鑑みますと、大変残念ですが……質問者の方がこのタイミングで住宅ローン控除をやり直すのはおそらく不可能だということになります。

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