はじめに

親が認知症になった場合に備えるにはどんな方法がある?

では、親が認知症になった場合に備える方法としてどのようなものがあるのでしょうか。
近年、テレビや雑誌などでも多く取り上げられ、注目を浴びているのが「家族信託」という制度です。比較的新しい制度ですので、耳慣れない方もいらっしゃるかも知れません。
では、「家族信託」とはどのような制度なのでしょうか。

例えば実家で一人暮らしをしている父が認知症になったため、施設に入居したとしましょう。父は既に認知症になっているため、法律行為ができません。預金がおろせない、実家の売却もできないことになります。

お金が不足する場合は、子が父の施設代や生活費を立て替えることになるでしょう。では、いったいどれくらいの費用がかかるものなのでしょうか。

あくまでも一例ですが、施設代が月額20万円×12カ月=240万円だとすると、10年間で2,400万円を立て替えることになります。その他に生活費もかかるでしょう。実家を売却しなければ回収できないぐらいの金額です。その実家も、認知症になってしまっている場合、父が亡くなった後でなければ売却することができません。

「家族信託」の仕組みとは?

このような認知症による資産凍結リスクを回避するために、例えば父と子の間で「家族信託」契約を締結しておきます。家族信託の登場人物は以下の3者です。

財産の管理を依頼する人=「委託者」
財産の管理を託される人=「受託者」
財産から利益を得る人=「受益者」

まず、父が元気なうちに「財産の管理を依頼する人=委託者」を父、「財産の管理を託される人=受託者」を子、「財産から利益を得る人=受益者」を父とする信託契約を子と締結します。今回は「委託者」と「受益者」が同じケースになります。

信託する財産は「実家」と「父の預金」です。「父の預金」は「信託口」とういう特別な口座に移します。信託口に移された父の預金は、「受託者」である子が出し入れすることができますが、父のためにしか使うことはできません。父が施設に入居すれば、その口座から施設代を払います。

また今後、父が実家に住むことがないのであれば、その時に父が認知症になっていても、子が実家を売却することができます。売却代金は信託口口座に入金し、父のために使います。

佐藤さん一家にあてはめてみると

佐藤さん一家にあてはめて考えてみましょう。

上記のような信託契約を明夫さん(委託者兼受益者)と祐介さん(受託者)との間で結んでおくことで、もし明夫さんが認知症になったとしても祐介さんが明夫さんに代わって自宅を売却することができます。そして、施設代や病院の費用、日々の生活費などは信託口口座から支払うことができます。

つまり、明夫さんが何とか自分で生活ができるうちは明夫さんの願い通り実家に住んでもらうことができ、施設への入居が必要となった段階でもし明夫さんが認知症になっていても、祐介さんが実家を売却し、施設代を捻出することができるのです。祐介さんの経済的な負担の心配もなくなります。

今回のケースでは明夫さんの脳梗塞の心配もあるため、できるだけ早く信託契約を結び、祐介さんが自宅の売却を進めていける状況を作ったほうがよいでしょう。自宅の売却が決まった段階で、明夫さんに施設に移ってもらう準備を始めるのはいかがでしょうか。

「家族信託」を利用する際に注意することは?

家族信託を一言で言うと、「自分の財産の管理や処分を信頼できる家族に信じて託す制度」といえます。あくまで「家族に信じて託す」ことが前提となるため、「信じて託せる」人がいない場合は利用すべきではありません。

また、家族信託は様々な場面での活用が考えられる自由な制度です。それだけに、しっかりとした目的を持ち、適正に設計をしないと思いもよらない事態となる可能性があります。

家族信託の利用にあたっては、それらの点を理解したうえで、経験豊富な専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

税理士:藤原由親

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