はじめに
21世紀になり、為替市場は大きな2つの危機を経験しました。リーマンショックとコロナショックです。前者が急激な円高をもたらした一方、後者はそれほどでもありません。その違いはどこにあるのでしょうか。
そして昨日、日経平均は終値で2万8,010円と、前営業日比953円安の大幅下落となりました。この値動きには様々な理由が考えられますが、世界の金融市場がコロナショック以前に戻ろうとしていることが大きな要因の一つでしょう。
今回は、リーマンショックとコロナショックの違いを明らかにするとともに、今後、円高リスクはないのかを検証してみたいと思います。
世界経済はコロナショック以前の水準へ
「100年に一度の危機」。2008年にリーマンショックが発生した際、このように評されました。それからわずか12年後の2020年、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生。世界中で強制的に経済活動が止められ、昨年は多くの国で経済成長率が歴史的な落ち込みを記録しました。世界経済を襲う危機のサイクルがかなり短くなっている印象は拭えません。
新型コロナ感染症は多数の犠牲者を出している公衆衛生上の大惨事であることは間違いありません。そのことを踏まえたうえで、誤解を恐れずに言えば、実体経済や金融市場における危機のレベルという観点ではリーマンショックに遠く及ばないことは明白でしょう。
と言うのも、原状復帰への道のりは今回のほうが圧倒的に短いとみられるからです。ちなみに、経済協力開発機構(OECD)は、5月31日に公表した経済見通しにおいて、今年4~6月期に世界の実質GDPの水準がコロナ禍前の2019年10~12月期を上回ると予想しています。
現状、主要国では米国が経済正常化に向けて先行していますが、原動力は巨額の財政出動と大規模な金融緩和であることは言うまでもないでしょう。コロナショック当初はリーマンショック以上に深刻な危機となることが懸念されましたが、政府と中央銀行(FRB)の機敏な行動が功を奏した格好です。
もちろん、期待通り、いわゆる“ゲームチェンジャー”になろうとしているワクチンの存在は言うに及びません。まさに、ワクチンの普及こそが最大の経済対策であり、今後、世界的に接種が進むに連れ、経済正常化の流れは加速するとみられます。
リーマンショックが金融危機あるいは信用不安を伴い、長く陰鬱な時間が続いたのに対し、コロナショックは幸いなことにそうではありません。危機の質が全く違うと言えるでしょう。