はじめに

なぜビットコインを通貨として利用するのか

では実際にエルサルバドルの国民はビットコインを通貨として利用するのでしょうか。国内で一般的に流通している米ドルがあるのに、あえてビットコインを選ぶ理由はないように見えます。しかし、エルサルバドルのような新興国に住む人にとってはビットコインに頼るところが少なからずあるのです。

エルサルバドルでは米国をはじめとする近隣国に出稼ぎにでる人が多く、彼らからの仕送り送金によって国の経済が大きく支えられています。ところが国民の約7割が銀行口座を持つことができずにいるとされています。また、出稼ぎの現地においても銀行口座を持つことができない人もいます。

ビットコインはインターネットとスマートフォンさえあれば誰でも簡単に資産を移動することができます。また、送金にかかるコストも比較的小さいです。そのため、このように経済的な理由によって金融サービスから締め出されている人にとっては、従来の金融機関に代わる金融インフラとしてビットコインを利用するメリットがあります。

さらに新興国のなかにはアルゼンチンやベネズエラのように国内情勢の混乱によって経済が破綻してしまっているような国もあります。そのような国では国民が自国通貨から米ドルなどの安定通貨へと資産を移そうとします。ビットコインは国の資本規制にかかることがないため、その際の逃避資産の一つとしても需要が高まっています。

国がビットコインを法定通貨として運用していくにはまだまだ課題も残されています。日本でもビットコインが外国通貨になることで法的な解釈の問題などが生じてきます。これらを解決しつつ、エルサルバドルにおいてビットコインが社会的な需要とともに通貨として機能するのかに注目です。

そして、ビットコインを通貨として頼りにする感覚は、私たちが日本という国や、国内の金融システムに対して危機感を覚えたときに初めて理解できるのかもしれません。

<文:暗号資産アナリスト 松嶋真倫>

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