はじめに

FRBは「フォワードルッキング」に回帰も

さて、ここで今後の米国の金融政策およびドル円相場のポイントを整理したいと思います。FRBがそう遠くない将来にテーパリング(資産購入の段階的な縮小)に着手することは既定路線となっており、市場はほぼ織り込んでいます。

この先、市場のテーマは完了時期に移行していくことになるでしょう。テーパリングの完了時期はその後の利上げのタイミングともリンクしているだけに重要です。当然ながら、テーパリングを早いペースで終わらせれば、利上げを行いたい時に行えるという裁量余地が生まれます。こうした先を見越した「フォワードルッキング」的な思考がFRB内に浸透し始めれば、ドル買いが勢いづくことが予想されます。

現状、FRBの主流派も市場もインフレに対しては楽観的な見通しが大勢ですが、楽観と慢心は紙一重。FRBの本意ではない形でテーパリングの完了を急がざるを得ない可能性も否定できません。

一方、不透明要因として挙げられるのはやはりデルタ変異株の感染拡大です。企業や消費者心理を悪化させるリスクがあるほか、9月の学校再開が遅れれば、雇用にも影響を及ぼすでしょう。

ただし、デルタ変異株の起源とされるインドの状況を鑑みると、感染拡大が長期化しない可能性も考えられます。インドでは、4月終わりから5月初めにかけて感染が爆発的に拡大しましたが、現在はそれ以前の水準に戻っています。

米国がこのような軌跡をたどるかどうかは分かりませんが、少なくとも既存のワクチンで重症化リスクがかなり軽減できるとされており、経済正常化の流れが逆行するとは考えられません。結果、今後のFRBの金融政策に重大な影響が及ぶことはないでしょう。

おそらくは、今年10~12月期にFRBのテーパリングがスタートした後、市場が早期完了を意識する場面が来るでしょう。年末から年初にかけてやや円安ドル高に振れる展開が想定されます。ただし、デルタ変異株の騒動が収まるまでしばらくは108~110円台を中心としたレンジ相場が続きそうです。

<文:シニア為替ストラテジスト  石月幸雄>

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