はじめに

世界経済のけん引役としての姿は期待薄

中国経済の変調が3つの要因により発生していることを示しましたが、これらのうち(3)足元のコロナ対応による経済活動抑制は、一過性の側面が強いと言えます。国内の感染は現状では、8月中旬にピークアウトしており、このまま感染拡大が抑えられれば、行動制限によって抑制されていたサービス消費のリバウンドがある程度は期待できます。

一方で、(2)供給制約の悪影響は、原材料高および部品の供給不足共に短期的な解消は見込みづらいと考えています。原材料は需要が底堅く、価格の高止まりが続く可能性があります。

また、半導体など部品の供給不足に対しては、設備投資が進んでいるもようですが、積み上がった受注分への対応もあり、納期が過去の水準まで短期化するには時間がかかるでしょう。

即ち、マージン縮小や生産の抑制など製造業企業への圧力が長引くことを意味しており、この状況が長期化する場合、当局は圧力を受けている分野への追加支援を行う可能性が高いでしょう。

7月に入り当局は、預金準備率の引き下げや下期の経済政策方針として改めて景気安定化に向けた施策の実施を示すなど、景気悪化への対処として圧力を受けている分野へ支援を実施する方向に舵を切っています。その上で、不動産やIT・ハイテク企業などを対象に、引き締めるべきところは締めるという姿勢を堅持しています。

従って、筆者は中国経済の変調を助長していた感染拡大が落ち着き、当局の政策姿勢も景気安定化に向けた措置実施へ傾いた以上、早晩、ある程度景気が安定方向へ向かうと考えています。

ただし、厳格な不動産政策の下、同分野の投資減速という景気への大きな下押し圧力が残っているほか、今後も感染抑制のために厳格な行動制限措置が散発的に導入され、景気が都度悪化する可能性が高い状況でもあります。また、製造業を苦しめる供給制約も引き続き残っています。

以上のことからまとめると、現在の中国景気を下押しする要因は薄れつつあり、これ以上の過度な懸念は必要ないと考えられる一方で、先行きの明るい材料はさほどありません。当局が景気浮揚に乗り気ではないことも加味すると、筆者は、中国経済に世界経済のけん引役としての役割は期待しづらくなっていると考えています。

<文:エコノミスト 須賀田進成>

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