はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

はじめまして。いつも拝見させていただいております。私は48歳、シングルの会社員です。バツイチで子供はおりません。50歳を前にして、パートナーもいないため将来に不安を感じております。地方出身で、東京に一人暮らし。将来実家に帰る予定はありません。50代を迎えるシングル女性として、以下2つの不安を抱えています。
【1.住居問題】
今、23区外のアパート暮らしですが通勤時間を短縮したいので、もう少し都心に住み替えたいと思います。そうなると家賃も上がるのですが、時間を買うという意味では、払える範囲であれば上がっても仕方ないと思っております。生涯家賃を考えると中古マンションを買った方がいいのでしょうか?
【2.資産運用】
現在、預貯金・投資信託などで計3,200万円ほどあります。そのうち、積立定期や普通預金など積極的に運用していない金額が1,600万円ほど円で保有しております。保有している投資信託も銀行に勧められたものなどで、トータルではプラスなものの、かなりマイナスになっている商品もあります。これではいけないと本などで運用方法などを勉強しておりますが、なかなか難しくて・・・・・・。資産の配分はどのようにしたらよろしいのでしょうか?
(40代後半 独身 女性)


野瀬: 私の周りでも男女を問わず、独身の40代は増え続けています。女性の社会進出が進むにつれて、今後もさらに増え続けるでしょう。

永遠のテーマ「家は購入か? 賃貸か?」

さて、まずは永遠のテーマともいえる「家は買うべきなのか、借りるべきなのか」について一度まとめてみましょう。

「買う」を選ぶ場合の絶対的条件は「将来的に貸せる・売れる!」ことです。この条件が満たされれば「買い」となりますし、満たされないのであれば買うべきではないのです。

これは独身であろうが、既婚であろうが同じです。家族の数は増えることも減ることもあります。また職場が変わる可能性もあります。

ですから、そういった住み換えに備えて「貸せる・売れる」という投資家目線を持っておくことは、700万戸空き家時代を迎える日本では絶対条件といえるでしょう。具体的には、駅10分以内の50平米以上の物件がよいと思います。

質問者の方の場合は、家族が増減する可能性は少ないと思いますし、職場ももう定年まで変わらないと思います。ただ、それであっても老後は通院するようになったり自宅が変わる可能性があるので、この条件は満たしておくとよいでしょう。

23区内であっても、正直価格の安いマンションはまだまだあります。

江東区や練馬区、大田区あたりの中古マンションだと、1,500万円を切るのにそこそこの広さで、駅まで徒歩10分という物件も珍しくありません。こういった物件のリサーチを始め、よいものが見つかったタイミングで買うのはアリです。

「よいものが見つかったタイミングで」と言ったのは理由があります。

それは今の都市部の不動産価格が少々高いからです。個人的な見解では、今の相場では割安な物件を見つけるのは少々難しいと思います。1年ぐらいかけてじっくり探し、それまでは賃貸で過ごすという戦略も必要でしょう。

また質問者の方の場合、定年まであと10年前後とはいえ、会社員であるというのは大きなメリットです。今の住宅ローン金利は正直常軌を逸しているぐらい低いので、これを利用しない手はありません。

この「貸せる・売れる」物件を、「安いタイミングで買う」という行動が上手くいくかどうかで、下手するとキャッシュフローは20~30年で数百万~1,000万円程変わってきます。ですから上記条件を満たす物件を焦らずじっくり探すとよいと思います。

老後資金はリスクをとるより安定した運用を

いただいている情報が少ないので、貯金額・年齢などから、年収や生活費を推察するしかないのですが、「年収450万円」「生活費350万円」「厚生年金あり」と条件を設定して、90歳までのお金の出入りをシミュレーションしてみました。

正直、今の資産が3,200万円と比較的大きな金額がありますので、厚生年金を受け取りながら、ある程度つつましやかな老後を過ごすのであれば、仮に賃貸を続けても90歳までは資金が枯渇することはありません。先ほどのお話にあるような住宅が購入できた場合だと、なお資金に余裕が出る試算になります。

ただ、お子さんがおられないので、もしも入院などが必要になった場合の資金が少し不足しているかなとは思います。目安としては、60歳でトータル総資産の合計が5,000~6,000万円ぐらいでしょうか。計算したら、あと1,000万円~1,500万円程度の積み上げがほしいですね。

おそらく定年までにあと700~800万円程度の積立貯金はできると思うので、足りない700万円程を運用で穴埋めしたいところです。

そうなると運用で必要な利回りは2%程度になるため、リスクの高い投資を選ぶ必要はありません。質問者の方がイメージしているのも老後資金だと思いますので、リスクをとるより安定した利回りを稼げるものがよいでしょう。

必要なのは「自分に必要な利回り」を知ること

預金と投資のバランスも現在のままで悪くはないと思います。確かにインフレ傾向を考えると、もっと投資に回したい気持ちは理解できますが、用途が老後資金である以上あまりリスクは取らないほうがよいです。

また、前述のように自宅という実物資産を購入したら、それはインフレに強い資産となりますので、預金とのバランス上も問題なくなると思います。

具体的には海外投資も含む、バランス型かつ分配型の投資信託でしょうか。今後、内需が減少すると予想される日本だけでなく、海外への投資も行っている投資信託であり、かつ、いちいち売却しなくてよい分配型がよいと思います。

分配型は投資効率が悪いといわれる方も多いですが、老後資金と考えた場合、いちいち売却のタイミングを考えなくてよい分悪い投資ではないと思います。

質問者よりも年齢が上の方から資産運用の相談を受けることがあるのですが、正直、私はいつも「高齢者の方の金融資産の多さ」と「それを食い物にする人たちの多さ」に驚きます。

もともと1億円以上のお金を持っている高齢者の場合、心配のタネは老後資金なので、これ以上資産を増やす必要はないはずなのです。それなのに、「どんどん増やしましょう!」と明らかに危険な新興国債券や商品先物投資を押しつけている悪い業者が本当に多いです。

私たちに必要なのは「自分に必要な利回り」をまず計算することです。そして、それが2%や3%など低いときには、「今投資しないと!」という甘い勧誘の言葉は真に受けないほうがいいと思います。

心配があったら、まず現在の資産、そして今後90歳までのキャッシュ・フローをざっくりでいいので計算してみましょう。数字で眺めると意外に心配は減っていくものです。

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