はじめに

いつから?──既発生の相続についても対象に

今回の改正法が施行される前に発生した相続についての取り扱いについて、法務省の説明では、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日、または、改正法の施行日のいずれか遅い日から3年以内に、所有権の移転の登記をしなければならない、とされています。

つまり、抜本的な所有者不明土地問題を解決するためすでに発生した相続についても対象となるとされたのです。

したがって、改正法施行前は義務ではなかったため、相続登記をしていなかった方も、施行後3年以内に手続きをする必要があります。

『図解でわかる改正民法・不動産登記法の基本』p41より

罰則はあり?──10万円以下の過料も

改正法施行後、相続登記義務を履行しないとどうなるのか、気になるところです。

この点に関しても、改正不動産登記法の第164条において「申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する」と定められました。

つまり、改正法施行後に相続登記を行わない場合は、過料の対象となることが新たに規定されたのです。

この条文だけ見ると、相続開始後3年以内に相続登記をしていない場合にすぐに過料に処されるのではと思われる方もいるかもしれません。

しかし、条文にもあるように“正当な理由”がある場合は、過料の対象外となります。“正当な理由”については、改正法の施行に合わせ今後、具体的に法務省から示されていくものと思われます。

また、過料というのは裁判所から発せられます。不動産登記を執り行う法務局からどのように過料の対象を裁判所に通知するかについても、今後法務省令等に所要の規定を設けるとされています。したがって、過料の通知については、その基準や手続きを明確にした上で適切に運用されることが今後求められます。

著者プロフィール
岡 信太郎(おか しんたろう)
1983年生まれ。北九州市出身。司法書士、合気道家、坂本龍馬研究家。関西学院大学法学部卒業後、司法書士のぞみ総合事務所を開設。政令指定都市の中で最も高齢化が進む北九州市で、不動産登
記・遺産相続・後見業務を多数扱う。介護施設などの顧問を務め、連日幅広い層から法的サポートに関する相談を受けている。合気道(公益財団法人合気会四段位)の調和と護身の精神を取り入れた執務姿勢で、依頼者の厚い信頼を得る。『新版 身内が亡くなったあとの「手続」と「相続」』(監修、三笠書房)、『坂本龍馬 志の貫き方』(カンゼン)、『子どもなくても老後安心読本』(朝日新聞出版)、『済ませておきたい死後の手続き』(KADOKAWA)など著書多数。

図解でわかる改正民法・不動産登記法の基本 岡信太郎 著

図解でわかる改正民法・不動産登記法の基本
所有者不明土地問題を解消するために2021年4月、民法と不動産登記法が改正されました。本書は、改正により義務化される相続登記や相続人申告登記制度、相続土地国庫帰属法などについて解説。さらに、オンライン申請手続きについても図解した一冊です。

(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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