はじめに
ドル円相場はなかなか方向感が掴めないでいましたが、9月下旬以降、円安ドル高方向への動きが顕著となっています。10月中旬には、2018年11月以来、2年11ヵ月ぶりの水準となる1ドル=114円台を示現しました。
今後、一段と円安が進行する可能性があるのか検証してみたいと思います。
FOMCを契機にドル円はレンジを上抜け
定跡通り、ドル高を牽引したのは米国債利回りの上昇であり、きっかけは米連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派転換とみるのが妥当です。
9月21~22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)において示された、各メンバーによる政策金利見通し(ドットチャート)は利上げに前向きという印象を与えるものとなりました。例えば、前回6月時点における2023年末の政策金利見通しは中央値で0.625%でしたが、今回は1.00%となっています。さらに2024年末は1.75%まで上昇する見通しです。
勿論、ドットチャートは単なる予測に過ぎず、指針(ガイダンス)ではありませんが、市場に対する相応のメッセージと言えるでしょう。
なお、テーパリング(資産購入の段階的な縮小)については、今のところ11月2~3日の次回FOMCで決定される運びに変更はない模様です。資産購入の縮小ペースを巡って多少の動揺はあるかもしれませんが、市場心理が急激に悪化するリスクは小さいとみられます。
すなわち、テーパリング開始を嫌気し、リスクオフから米国債市場が大きな変動に見舞われる展開は想定していません。
資源価格の動向に大きな注目
さて、ここまで順調なペースで回復してきた米国経済にとって最大のリスクは物価高という見方が多くなっています。FRBのパウエル議長は「インフレは一時的」という見解を繰り返していますが、状況は一向に改善していません。この先も物価上昇基調が続き、消費を冷やすリスクはそれほど小さくないとみられます。
こうした中、市場で盛んに取り沙汰されているワードが「スタグフレーション」です。これは、1970年代に顕在化した景気停滞とインフレが併存する状態を指します。当時は、オイルショックに伴って物価が高騰し、それに対処すべく行われた大幅な利上げによって景気が著しく悪化しました。
翻って、現在の米国では供給制約に資源価格の上昇が追い打ちをかける形で、インフレリスクを醸し出しています。1970年代に似ていなくもありませんが、二桁のインフレ率とマイナスの経済成長が重なった当時とは深刻さが違います。正直、軽々に「スタグフレーション」という言葉を使うべきではないのかもしれません。
もっとも、世界的な脱炭素化と投資不足が資源価格上昇の主因だとすれば、トレンドが長期に及ぶ可能性もないと言えません。「スタグフレーション」まで行かなくても、米経済にとって大きな圧迫要因となり続けるリスクには要注意でしょう。
勿論、このままのペースで資源価格の上昇は継続しないという見方があって然るべきです。ただ、国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は、「厳冬が長引いて生産国が市場を安心させる必要な措置を取らなければ、当面、(価格が)高止まりして荒い値動きが続く可能性がある」との見解を示しています。相場の安定にはまだ時間がかかると思っておいたほうが無難でしょう。