はじめに
「2030年までに生物多様性の損失を逆転させる」
中国の昆明で10月11~15日、国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)が開催されました。生物多様性(地球上の生物がバラエティに富んでいることや、生きものたちの豊かな個性と繋がりのことを指す)を維持するために、世界の約200の国・地域が陸地と海洋の3割の面積を保護・保全することを目指す目標について議論を行いました。
閣僚級会合では、「少なくとも2030年までに生物多様性の損失を逆転させ回復させる」とする「昆明宣言」を採択しました。2022年春の対面交渉で、2030年までに各国が陸域と海洋の30%を生物保護区にするという新たな世界目標の合意をめざしていきます。
今後、多数の数値目標が定められ、企業も対応を求められるでしょう。金融界も、気候変動と同様、生物多様性の損失がリスクの連鎖を生み、金融の安定に影響すると気づき出しています。6月には「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が設立され、2022年からは企業による試験的な開示が始まる予定です。
消費者ニーズに応えるトレーサビリティとは?
漁業の持続可能性に関心を持つ小売業者や消費者は年々増加していますが、水産物販売量の約25%しか持続可能性の認証や格付けを受けていません(2020年時点)。
先進的に取り組むツナ缶世界最大手タイ・ユニオン・グループは、トレーサビリティ(生産履歴の管理)が持続可能な漁業の柱であると考え、国際水産物持続財団(ISSF)が実施する「持続可能な漁業に取り組む船舶登録」に登録する大型巾着網漁船からしか調達しないことを宣言しました。国際水域におけるマグロ漁の環境実績やトレーサビリティの改善に貢献しています。
同社は今年2月、日系銀行等が主幹事となるサステナビリティ・リンク・シンジケートローンで約200億円を調達しました。トレーサビリティ強化等の目標を達成すると金利が下がる仕組みで、企業のサステナビリティへの取り組みを促すものとして注目されています。
世界自然保護基金(WWF)等からなるグローバルダイアローグ(GDST)は2020年3月、水産物のトレーサビリティ標準を発表しました。これをベースとし、スペインの海産大手ニュー・ペスカノバは米IBMと提携してブロックチェーンベースのネットワーク「IBM Food Trust」で海産物のトレーサビリティを保証すると発表しました(2021年6月)。海産物の捕獲場所や時間、輸送の最新情報、魚の餌などの詳細情報を含む、製品のサプライチェーンデータをほぼリアルタイムで記録できます。