はじめに
「頑張ったのに上司に認めてもらえない」「同期と比べて劣っているかもしれない」……仕事に真剣に向き合っている人ほど、自分に厳しく苦しくなってしまいがち。そのネガティブな感情は、もしかしたら自律神経を乱す原因になっているかもしれません。『「自律神経を整える1日の過ごし方」を聞いてきました』の著者であり、順天堂大学医学部教授である小林弘幸先生にネガティブな感情と向き合い方と自律神経を整えるコツを聞いてみました。
「評価されたい」という気持ちは自律神経を乱す
――毎日、一生懸命仕事をしていてもちょっとしたことで落ち込んでしまいます。特に、毎週行われる社内プレゼンでは、失敗したりして、うまくできたと思っても上司からダメ出しされたり、自分には才能がないなと思います。
(小林弘幸先生、以下小林)緊張して力が発揮できなかったことを悔やむ、せっかく考えた企画をダメ出しされてヘコむことは、誰にでもあることです。人は直面している事態が、現実の姿であってほしくないと願えば願うほど、心が苦しくなるものです。そんな感情を抱くのは、しっかり準備して、真剣に向き合っていたということ。まずはそんな自分を褒めてあげましょう。
――自分で自分を褒めても、正直なところ、やっぱり頑張った分、周りにも評価してもらいたいと感じてしまいます。
(小林)たしかに、世の中は理不尽なことばかりですからね。自分が悪くても人のせいにしたり、いっていることがころころ変わったり、機嫌によって態度が変わったり、理不尽な人は多いもの。他人の評価を気にしていたら、理不尽な人に振り回されてしまいますよ。「理不尽なことが多い」とあきらめることも大切です。
――機嫌によって態度が変わるような人からの評価を期待していると思うと気が遠くなりました。「理不尽だなあ」と考えると気が楽になりそうです。
(小林)私も新米医師のときは、一生懸命に考えた論文を上司に認められずに愚痴をいっていました。また、努力すればするほど、結果が出ると信じていたので、評価されないとイライラしていました。
――先生でもそんなときがあったんですね。
(小林)ありましたよ。でも、上司が評価してくれないと嘆いたり、うまくいかないことにイライラしたり、悩んだりしていると、自律神経が乱れてしまい、自分に悪影響だと気づきました。それからは、なにか嫌なことがあったとしても、環境や他人のせいにしないで、「自律神経が乱れている。だったら整えなくては」と意識するようになりました。
――自律神経に意識を向けることによって、落ち込むだけではなく、次はどうすればいいかと改善点を探すことができそうですね。
(小林)大切なことは、イライラしたり悩んだりして、自律神経を乱してしまわないように自分で意識すること。悩みの連鎖に陥っているときは、主観的で一方的な視点にとらわれがちなので、悩む主体を他の人に託して『「母なら」「先輩なら」「あの先生なら」「あの人なら」どう考えるか』と想像すれば、客観的な思考になり解決策が浮かぶかもしれません。
失敗したり、評価されなかったりしても、「起こったことはしょうがない」と受け止めることで、自律神経が整い、多少のことでは動揺しないようになりますよ。客観的な視点を持つためには「悩みを大・中・小に分ける」「悩みを書き出す」「時間を決めて悩む」などもおすすめです。
――なるほど……。ただ、仕事を始めたばかりなので、次から次へと仕事があって、つねに目の前のことでいっぱいいっぱい……。自律神経を整えようと意識するような、余裕を持つことは難しい気がします。
(小林)そうですよね。次から次へと仕事があり、休む暇もないと感じたときこそ、意識的に少し立ち止まってみることも大事だと思いますよ。
――立ち止まるんですか? 目の前に仕事がたくさんあるのに、さらに仕事がたまってしまいそうです。
(小林)自律神経が乱れたまま仕事を進めても効率が悪くなってしまいます。ゆとりを持って仕事に取り組んだほうが、解決策がみえてきたり、良いアイデアが生まれたりするので、がむしゃらに働き続けるよりも、結果として仕事が進んでいることもよくあります。
――へぇ〜。忙しいときこそ、立ち止まる。意識してみます。ところで「立ち止まる」って、具体的にどうすればいいんですか?
(小林)たとえば、ネガティブな感情に襲われたら、机の周りを片づけてみるのです。米フロリダ州立大学の研究チームの実験では、皿洗いも気持ちを込めてすることでストレス解消に効果があることがわかりました。目的意識を持っていれば、幸福感や満足感が得られるのです。私も水の流れを感じながら、汚れたものがキレイになっていく皿洗いをすることで自分の生活のペースをつくっています。ゴミを1つ捨てるだけでもいいですよ。ごちゃごちゃしたものが整理されていく様子をみているうちに、副交感神経の働きが上がって、心にゆとりが生まれます。