はじめに

100年時代の「生きる喜び」とは?

そういった意味では、いまの世の中技術の進化で便利なものはどんどんできているけれど、ワクワクするものがないように思うんですね。それで、講演やセミナーでは「便利曲線は上がっているけれど、感動曲線が下がっている」なんてよく話しています。京都大学の川上浩司先生が、不便であることの益――「不便益」という考え方を提唱されていますが、たしかに、いくら便利と言っても、富士山に登るのに、もし頂上までエレベーターがついていたとしたら山登りの楽しさは失われてしまいます。

便利なことが悪いわけではありません。不便なことをどんどん解消していくと、効率も上がるし、楽になったり、コストを安く抑えて商品をつくったりすることもできます。生活や仕事のなかの不便に気づいて、新しい仕組みを考えるというのもイノベーションのひとつのあり方です。

現在は、効率や生産性を求める工業社会的価値観から、しだいに精神的な豊かさ、1人の人間として生きる喜びを求める価値観へと転換しています。そういった社会を、オムロンでは経営の未来を予測した「SINIC理論」(※)に基づき、「自律社会」と呼んでいます。ビジネス的に言い換えると、「1人ずつの価値観に合った商品やサービスが生まれる時代」とも言えるでしょう。

「自律社会」を見据えるなら、便利軸だけではなく感動軸からもイノベーションを考える必要があります。「自分の幸せは自分でつくる」というのが、「自律社会」の常識となるだろうからです。世の中を変える力は、私たち1人ひとりにあります。どうせ変えるなら、あなた自身がワクワクする世の中を、イノベーションを起こして創りませんか。

(※)「SINIC理論」
1970年、大阪万博の年に国際未来学会で立石電機(現オムロン)が発表した未来予測。「Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution」の略称。科学・技術・社会は相互に作用しながら発展していくという基本的な考え方のもと、現在もオムロンの経営の羅針盤となっている。

竹林一(たけばやし・はじめ)
オムロン株式会社イノベーション推進本部インキュベーションセンタ長、京都大学経営管理大学院 客員教授。「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである」との理念に感動して立石電機(現オムロン)に入社。以後、新規事業開発として鉄道カードシステム事業やモバイル事業、電子マネー事業等に携わった後、事業構造改革の推進、オムロンソフトウェア代表取締役社長、オムロン直方代表取締役社長、ドコモ・ヘルスケア代表取締役社長を経てオムロン株式会社イノベーション推進本部インキュベーションセンタ長を務めるとともに、京都大学経営管理大学院客員教授として「100年続くベンチャーが生まれ育つ都」に向けた研究・実践を推進する。著書に『ここまできた!モバイルマーケティング進化論』(日経BP企画)、『PMO構築事例・実践法』(共著:ソフト・リサーチ・センター)等がある。

たった1人からはじめるイノベーション入門 竹林一 著

たった1人からはじめるイノベーション入門
なぜ、イノベーションはいつもかけ声で終わるのか? オムロンで鉄道事業、モバイル事業、赤字会社の立て直しなど多くのイノベーションに携わってきた著者による実践的理論は、「新しい軸」「起承転結」「忍者と武士」……すべて日本語に落とし込み腹落ちする

(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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