はじめに
新興国通貨建てで発行されるインパクト・インベストメント債
「社会課題の解決に必要な資金を調達するための債券」などと言われると、自分自身が積極的に社会貢献に関わっているような気になり、応援の気持ちを込めて投資したくなる人もいると思います。社会貢献が目的である以上、大きく元本を割り込むような、ハイリスクの商品性からは最も縁遠いところにある金融商品というイメージもあるかも知れません。
では、実際にはどうでしょうか。前出のNPO法人日本サスティナブル投資フォーラムが集計・公表したデータを見ると、「???」と、思わず首を傾げてしまいたくなりそうなインパクト・インベストメント債券が、すでにたくさん発行・売り出されていました。
一例を挙げてみましょう。
恐らく、これがインパクト・インベストメント債券の嚆矢になると思うのですが、2008年3月に発行された「予防接種のための国際金融ファシリティ」債は、南ア・ランド建てでした。そのお陰(?)で年9.90%という高い利率が実現しているのですが、この手の新興国通貨は利率が高い反面、国のインフレ率も高いため、通貨安になりやすいというリスクがあります。
実際、同債券が発行された2008年3月時点の南ア・ランド/円のレートを見ると、1南ア・ランド=12円50銭前後だったのが、一時は1南ア・ランド=8円40銭前後まで南ア・ランド安が進みました。その後は元の水準まで戻り、償還を迎えた2010年3月時点では1南ア・ランド=12円前後だったので、為替はやや負けたものの、年9.90%という高い利率のお陰で、円ベースでの元本割れは避けられました。
しかし、為替で大きくやられた債券もあります。2018年3月発行の「クレディ・アグリコル・CIB」債は、年11.60%という非常に高い利率を出していましたが、この債券の発行通貨はトルコ・リラです。2018年3月のトルコ・リラ/円は、1トルコ・リラ=27円前後でしたが、同債券が償還を迎える2021年3月時点では、1トルコ・リラ=14円前後まで下落していました。いくら年11%という高い利率が得られたとしても、この間にトルコ・リラは対円で48%も下落していますから、完全な元本割れです。