はじめに
東京では、21日間連続で雨が降り、8月の日照時間が観測史上最短を記録した今年。
雨が続いた影響か、スーパーの売上が落ち込んだ一方、百貨店の売上は伸びました。
百貨店とスーパーで明暗が分かれた理由について専門家に聞きました。
明暗が分かれたのは長雨の影響?
長雨に見舞われた8月。時事通信や産経新聞では、長雨の影響で百貨店とスーパーで売上の明暗が分かれたと報道されました。
日本百貨店協会では前年同月比で2%増え、2ヶ月ぶりに売上が好転。一方、日本チェーンストア協会によると、スーパーの売上は前年同月比0.5%減少したそうです。
本当に長雨の影響で明暗が分かれたのか、三井住友アセットマネジメント・調査部・チーフエコノミストの宅森昭吉さんに聞きました。
「長雨による影響も多少はあるかもしれませんが、それだけではありません。そもそも、百貨店もスーパーも、食料品・衣料品・家庭用品といった、ほぼ同じ項目で売り上げが振るわなかったのですから」
8月の百貨店・スーパーの売上概況(前年同月比)によると、食料品はマイナス0.2%(百貨店)・マイナス0.3%(スーパー)、衣料品はマイナス0.1%(百貨店)・マイナス4.4%(スーパー)、家庭用品マイナス9.1%(百貨店)・日用雑貨品マイナス1.9%(スーパー)と、共通してマイナスに転じています。
「2016年度は円高の影響で、業績が伸び悩んだ企業は少なくありませんでした。そのため、その業績を反映した今年の夏のボーナスは全体的に厳しかったのです。全体的に買い控えの動きがあったのではないでしょうか」
22日に発表になった厚生労働省の7月の毎月勤労統計調査によると、ボーナスにあたる「特別に支払われた給与」はマイナス3.1%。このため、ほかの項目がプラスでも全体の現金給与総額はマイナス0.6%になり、減少幅は2015年6月以来の大きさを記録しています。
百貨店の売上が好調だった理由
では、なぜ百貨店の売上は好転したのでしょうか。
「百貨店全体の売上でみると2%のプラスですが、地区別の売上高をみると、東京や横浜をはじめとした主要10都市の合計では3.5%増とプラスに転じています。それ以外の地区では1.4%のマイナスになっています」と宅森さん。
百貨店協会の売上高速報によると、10都市合計ではプラスでも、そのうちの名古屋・京都・広島は前年よりマイナス。北海道では、札幌だけでみるとプラス8%になっているのに、(札幌を除いた)北海道全体ではマイナス8.7%になっています。
そうした現象には、外国人観光客によるインバウンドの影響があると宅森さん。
「百貨店で売り上げが伸びた項目を商品別にみると、資産効果の影響を受けやすい美術・宝飾・貴金属が同年同月比9.9%増と売れています。富裕層が購入しているのです。また、化粧品も19.5%増と好調です。売上が増えた百貨店が都市部に集中していることを考慮すると、観光に訪れた外国人による消費が影響しているのだと考えられます」
実際に、百貨店の外国人観光客の売上は、前年同月比70.2%を記録。7月の54.9%よりも大きく伸びています。
スーパーが苦戦し、百貨店が好調になった背景には、ボーナスの伸び悩みやインバウンド効果といった、“長雨のせい”と一言では片付けれらない要因がありました。
最後に、もちろん長雨による影響もあると宅森さんは付け加えます。
「スーパーは車で買い物に行くことが多いですが、都市部の百貨店は地下鉄に直結しているところも多いので、雨が降っても行きやすい立地というのも追い風になっているのかもしれませんね」
【取材協力】
宅森 昭吉(たくもり あきよし)
三井住友アセットマネジメント チーフエコノミスト
旧三井銀行(現三井住友銀行)で都市銀行初のマーケットエコノミストを務める。さくら証券チーフエコノミストなどを経て現職。「景気ウォッチャー調査」などの開発・改善に取り組み、最近では政府の経済統計改革に参画。「景気循環学会」常務理事。著書に「ジンクスで読む日本経済」(東洋経済新報社)など。
(文:編集部 土屋舞)