はじめに

よく「○○の何曜日」という冠詞のつく曜日があるが、心なしか金曜日は、経験のないほどのニュースがよく入るように思います。随分と昔に少年少女を夜に眠れなくさせた「ジェイソン」も13日の金曜日でした。

そして2016年6月24日(金)も、世界中をイギリス発の大きなニュースが巡りました。イギリスのEU離脱が、イギリス国内で実施された国民投票で決定しました。


EUとイギリスの長い歴史

今回のイギリスEU離脱の解説をする前に、「ブレグジット」という言葉についてお伝えします。イギリスのEU離脱劇について、ニュースでよく「ブレグジット」という言葉を使われていると思いますが、そもそもなぜ「ブレグジット」というかご存知ですか?

ブレグジット(Brexit)とは、Britain(イギリス連邦)とExit(退出)を組み合わせた造語です。元々は財政不安定なギリシヤ(Greece)がEUを退出することを意味する「グレグジット(Grexit)から派生しているといわれています。

そのため、イギリスのEU離脱に引き続き、そう遠くない将来にフレグジット(フランス)やスウェグジット(スウェーデン)、ジャーグジット(ドイツ)、スペグジット(スペイン)なども相次ぐのではないかとも言われています。

とても興味深いのは、「国名+退出」が言葉として浸透してしまうことです。今回のイギリスの国民投票は、EUを離脱するか、残留するかを判断する国民投票であるのに、投票前から「離脱」が前提となっていることに驚きを覚えます。それだけヨーロッパの国々にとって経済的のみならず政治的な、いわゆる「運命共同体」となっているEUを離脱することは想像を超えた、大ニュースであるといえるでしょう。

そもそもEU(欧州連合、European Union)は、1993年に発足した「ヨーロッパ各国の垣根をなくしていこう」という共同体のことです。域内におけるヒト、モノ、サービスの垣根を外すことで、加盟各国の経済発展に繋げていこうとすると同時に、世界経済においてアメリカや中国、そして日本といった経済大国に負けないようにしよう!という目的を有しています。

【参考:世界とユーロ加盟国 名目GDP】※単位10億USドル

世界合計(189カ国)ユーロ圏合計(28カ国)割合(1/2)
73069.42(1)16220.37(2)22.2%

出典:IMF2016年4月版をもとに作成

イギリスとEUのあいだには長い歴史があります。イギリスは1973年にEUの前身であるEC(ヨーロッパ共同体)に加盟したものの、翌々年の1975年に一度離脱を巡って国民投票が実施された過去があります。

また、1992年にはかの著名なジョージ・ソロス氏がイングランド銀行に向けてポンド売りを仕掛け、銀行はたいして買い支えることができず、結果イギリスはERM(欧州為替相場メカニズム)を脱退しました。

2008年にリスボン条約を批准したことによりEUには加盟したものの、EUの共通通貨である「ユーロ」には加入していないという“いびつな”形に落ち着いています。イギリスはそのときから、自国通貨である「ポンド」を利用しています。また、EUの特徴として有名な「入国審査なしで人の移動を認める」とする「シェンゲン協定」にも参加していません。

そのため今回はユーロからの離脱ではなく、EUそのものからイギリスが離脱するということなのですね。

なぜイギリスでEU離脱が主張されたのか

今回の国民投票の実施については、2つの「背景」が存在します。

1つはイギリスがEUに加盟していることをプラスととる勢力(残留派)と、同じく加盟していることをマイナスと認識する勢力(離脱派)がまず生まれたこと。ただ、当時から今日にあたりイギリスの舵取りを担うキャメロン首相(残留派)が政治情勢をめぐる駆け引きのなかで、選挙の公約としてEU離脱を問う国民投票を約束し、その実施を決定。残留派勝利のシナリオを描くも正反対の結論となったことです。

では離脱派はなぜ、イギリスをEUからの離脱を主張したのでしょうか。

最も大きな理由は、EU加盟国のなかで「格差」が大きな問題となったことがあげられます。EU圏内で財政力のある国(ドイツ、フランス、そしてイギリスなど)と、近年新たに加盟した東ヨーロッパ諸国などの財政力のない国とのあいだで経済格差が拡がり、「豊かな国が貧しい国を救うためにいろいろと我慢をしている」という構図に反発が拡がりました。特に富裕層と労働者層の格差がかねてより問題となっていたイギリスでは反発感が強く、社会問題化していました。そこに追い打ちをかけたのが、2015年にシリア国内の政情不安により発生した「シリア難民問題」です。

シリア内戦の泥沼化で難民が大量に押し寄せることで、特にイギリス国内における労働者層は、「仕事が取られてしまうのはないか」「(難民問題がなければ)自分たちに担保される(はずの)社会保障費が削られて、生活が圧迫されてしまうのではないか」という不安感が増したといえるでしょう。もちろんイギリスはドイツやフランスと異なり、海があるだけ受入リスクは低いといえます。ただ、難民受け入れによって混乱するヨーロッパ各国の様子が報道されると、イギリス国内における不安を増大させました。

キャメロン首相は2016年3月、移民労働者への社会保障の一部制限など、いくつかの残留条件をEUに突き付けたうえでイギリスのEU残留案に合意、イギリス国民に信を問う目的で国民投票の開催を決定しました。つまりキャメロン首相にとっては、出口戦略を決めたうえでの、結論ありきの投票実施であり、残留決定を予測していたといえます。

キャメロン首相にとって予想外だったのは、イギリス国内で政治家として大きな影響力を持つ前ロンドン市長、ボリス・ジョンソン氏の動向です。イギリスを代表する政党である保守党の次期党首候補筆頭ともされるジョンソン氏は、2016年2月にイギリスのテレグラフ紙(以下出典)に、次のように述べて大きな話題を呼びました。

>「私たちが求める変化を得るには、一つの道しかない。それは投票に行く(=離脱票を投じる)ことだ。すべてのEUの歴史が示す通り、EUが本気で耳を傾けるのは、その国民が「NO」と言ったときだけだ。根本的な問題が残っている。EUが掲げる理想は、私たちとは相いれない。EUが造りたいのは、ほとんどのイギリス人が望まない、真の連邦国家、合衆国なのだ」。
(Boris Johnson exclusive: There is only one way to get the change we want – vote to leave the EU - Telegraph)

ボリス・ジョンソン氏は政治的な考え方として離脱を主張していたのではなく、政権を担う残留派との政治的駆け引きとして離脱を主張したとする指摘もあります。ただ、イギリス国内で強い支持基盤を持つジョンソン氏の主張が、今回の投票結果に一定の影響を示したといえそうです。

EU離脱によるイギリスへのデメリット

結果的に離脱派の主張がイギリス国民に受け入れられましたが、それでは国民投票において敗北する結果となった「残留派」は、どのような主張をしていたのでしょうか。この主張はそのまま「イギリスがEUを離脱することによるデメリット」と言い換えることもできます。

残留派の最大の主張は「EU社会、さらには国際社会からのイギリスの孤立」です。

イギリスの孤立によって貿易や金融業にとって、マイナスとなる危惧が指摘されています。また、今回イギリスが忌避する結果となった移民についても、社会のインフラ化を支え、長期的な視野で見ると国を強くするのではという「プラスの面」も叫ばれてきました。イギリスはこの側面からみると、自国の基盤整備に自分から背を向けたということもできそうです。

また、イギリスは金融の先鋭国として古くから世界経済のリード役を担ってきました。今後、EUから離脱し排他的な印象が広がることで、このリード役のポジションを引き渡すことになるのではないかともいわれています。

特に現在、金融の世界にはFinTech(フィンテック)という、金融×ITによるイノベーション技術で新たな世界観を創造しようという動きが活発化していています。イギリスはアメリカや中国と並びFinTechの集積地だったものの、今回の離脱決定が影響し、FinTechのリード役としての存在感もほかのヨーロッパ諸国に譲り渡すのでは、といわれています。FinTechは「金融世界の破壊者」ともいわれますが、それは言い換えれば数多くの新規ビジネス、新規雇用を生み出すともされ、この分野でも、国家発展の貴重なチャンスを自分たちから手放した、といえそうです。

離脱に向けてのイギリスのこれから

日本時間24日15時。国民投票の最終結果が発表されました。最終的な投票率は72.1%でした。

最終投票数最終投票率
離脱派1741万742票51.9%
残留派1614万1241票48.1%

速報を分析すると、事前に指摘されていた通り、ロンドンなど都市部では離脱派が強く、地方部で残留派が強い結果になったことが伺いしれます。また特徴的なのは、イギリス「連邦」による主張の違い。イングランドでは離脱派が目立ちましたが、スコットランドでは残留派が支持を獲得し、スコットランドの首相からは、「本当に離脱するなら(イギリス連邦から)独立する」というコメントも入ってきています。

出典:「スコットランド首相イギリスから独立示唆」

それでは、今後の流れはどうなるのでしょうか。

今回の離脱多数派の投票結果を受け、キャメロン首相は(自身の主張とは異なるが)、イギリス連邦のトップとして、EU理事会に「脱退」を通告することになります。ただEUは貿易における各種協定を兼ねているため、それらをEU加盟諸国と「個別に」結び直さなければいけないともいわれています。

原則論を記すと、EUからの離脱は「リスボン条約」という合意に基づいて進められます。ただ、EUから国家が離脱するのはもちろん初めてのうえ、その国がEUを代表する国家の一つだったイギリスということで、どこまで額面通りに進むのか、実際のところ誰もわかりません。

投票が終了する前から乱高下が始まった日本の、そして世界の金融市場の不安感は、まだまだ落ち着くことはなく、今後もイギリスとEUに鋭い視線を向けていくことになるでしょう。日本の市場に、どのような影響があるかも、一時も油断できません。

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