はじめに
ドル円の長期推移は横ばい
このように為替レートが大きく動くと、その値動きに一喜一憂してしまいがちですが、長期投資を前提にして米国株式や、S&P500インデックスファンドを保有している人は、為替レートの値動きは無視しても良いでしょう。
というのも為替レート、なかでもドル円の値動きを長期的に俯瞰すると、ほぼ横ばいの推移が続いているからです。それも、この10年や15年という話ではありません。
外国為替レートが、固定相場制から変動相場制に変わったのは1971年のことですが、変動相場制に移行してからのドル円の値動きを見ると、バブル経済真只中の1987年まで、円高が進んだ後、1ドル=76円から150円の間のレンジで推移しているからです。かなりワイドなレンジではあるのですが、ドル円は35年間という非常に長い期間、このレンジ内で行ったり来たりを繰り返しているだけなのです。
そもそも固定相場制のもとで、1ドル=360円だったドル円が、変動相場制への移行を経て、1987年に1ドル=150円まで円高が進んだのは、日本経済が1960年代の高度経済成長と、1980年代のバブル経済があったからです。
この2つの大きな経済的ピークによって、日本経済は米国に次ぐ経済規模を持つようになりました。
その一方で米国経済は、自動車をはじめとする主要産業が日本企業に取って代わられ、苦戦しました。1ドル=360円から150円への円高は、経済的にどんどん成長し続けた日本と、苦戦を強いられた米国経済の関係性を、鮮明に表しています。そしてそれ以降は、1ドル=75~150円のレンジで推移し続けているのです。
1ドル=139円を付けるなかで、「円安に歯止めがかからなくなってきた。このままだと1ドル=140円、あるいは150円もあるかも知れない」といった声が聞こえてきましたが、結局のところ1ドル=139円も長期的なレンジの範囲内に過ぎなかったのです。
為替変動に惑わされないこと
逆にいえば、1ドル=139円から132円へと円高が進むなか、「こんなに急激な円高を見てしまうと、やはり外貨建ての金融商品はリスクが高い」などと考える人もいるかも知れませんが、その認識も間違いです。
たとえばS&P500は1987年1月当時、240ポイント前後でしたが、2021年12月のピーク時には4800ポイントをつけました。この間、約20倍に成長しています。仮に、1ドル=139円が75円まで円高になったとしても、この間の為替差損は46%程度に過ぎません。
たしかに、短期的に見れば、46%のマイナスは大きなロスですが、この間のS&P500が20倍だとしたら、その上昇率は1900%にも達します。1900%のうち46%のロスが生じたとしても、それはほぼ誤差に過ぎないと考えられます。
つまり為替レートの値動きを見て外国株式や、海外市場に投資する投資信託の売買判断を下すと、本質を見間違える恐れがあるのです。極端な話、外貨建て金融商品、とりわけ元本の成長性に投資する外国株式や投資信託の場合、為替レートの水準は中立要因という程度に考えておけば良いでしょう。