はじめに

今年後半の相場展開としてSwing Back 、すなわち揺り戻しの展開になるだろうと述べていましたが、まさに、そのような展開になっています。米国株相場は6月半ばを境にV字回復を歩んでいます。年初の高値から下げた分の半値を取り戻しました。「半値戻しは全値戻し」の格言通り、今後はまた最高値近辺まで戻していくと考えています。


6月半ばがまさに折り返し地点となりましたが、シンボリックなことが6月15日に起きています。全米ガソリン価格のピークアウトであり、長期金利のピークアウトであり、そしてFOMCでの0.75%の利上げです。

その後7月も0.75%の利上げを行いました。9月も、もしかしたら0.75%の利上げを行うかもしれませんが、これ以上はありません。その意味で利上げ加速のピークアウトともいえるのが6月15日のFOMCでした。

この3つが今年前半、株を下げた要因でした。それがピークアウトしたということは、これらは好材料に転じていくことでしょう。しかし、ひとつ性格が異なるのが長期金利です。FEDの利上げで長期金利が上昇して株価のバリュエーション調整(株価の下落によって株価収益率が下がること)を招いていましたが、これが低下に転じたのはリセッション懸念の反映です。

しかし、リセッション(景気後退)懸念の元をただせば、インフレが収まらない→FEDは景気を犠牲にしてまで強硬な引き締めをする→リセッションになる、というもので、その前提が緩んでくるのだから、リセッションにもならない、ということになります。ある意味、ベストシナリオが実現する可能性があります。

まずインフレ。足元までの原油価格の低下を見れば、8月分のCPIも落ち着く

食品価格も少しタイムラグを伴いますが、そのうち落ち着いてきます。なぜなら、広く食品価格全般に影響する穀物の価格が低下するためです。なぜ穀物価格が低下するかといえば、原油価格に連動するためです。意外に思われるかもしれませんが、原油価格と穀物価格は相関が高いです。

その背景のひとつが、トウモロコシを原料として作られるエタノールはガソリンの代替品のためです。ガソリンの価格が上がると代替品であるエタノールの需要が増え、トウモロコシの価格も上昇します。そうすると今度は、トウモロコシの代替品である大豆や小麦などの価格にも波及します。その結果、穀物価格は原油価格と同じような値動きをするのです。

食品価格の高騰は農産物価格の上昇だけが原因ではありません。他の要素として、サプライチェーンの目詰まり、家庭内での食事機会の増加が挙げられます。実際、CPI(消費者物価指数)の食品価格を見ると、Food at home(家庭内食品)のほうがFood away from home(外食)より高い伸びとなっています。

これらはコロナによる特殊要因です。今回のインフレは、とどのつまり、コロナによって引き起こされている部分が大半です。

原油価格の下落によって、エネルギー、そして食品価格の相当程度は落ち着いてくるでしょう。しかし、コアの部分で最大のウエイトを占める住宅費、なかでも帰属家賃が落ち着かないとCPI全体の高止まりは続くでしょう。

住宅価格自体はFEDの引き締めで住宅ローン金利が上がっているので抑制されます。しかし、賃料は、住宅取得を諦めた人が賃貸に流れたりするため、そう簡単に下がりません。ただし、帰属家賃もコロナによる特殊要因で跳ね上がった部分があるので、それは剥落してくるでしょう。

以上のことから、年明けにはインフレも相当マイルドなものになると思われ、FEDの利上げ停止観測が浮上するでしょう。

一部では強過ぎる労働市場を懸念する声があります。7月の雇用統計では、非農業部門の就業者数は市場予想を大幅に上回る52万8000人増。失業率も3.5%に低下しました。平均時給は前月比0.5%増となり、市場予想(0.3%増)を上回って伸びが加速しました。

労働市場の過熱から賃金上昇が続けばインフレを抑えられなくなります。従ってFRBは利上げの手綱を緩められない。こうしたことを懸念する見方があります。

たしかに労働市場の状況はインフレの重要な要素です。失業率とインフレ率のトレードオフの関係を示したフィリップス曲線はよく知られています。ですが、このフィリップス曲線は状況によって必ずしも当てはまらないことが多いのも有名です。いい例がリーマンショック後の経済回復期です。失業率はコロナ前までの10年間、一貫して右肩下がりで推移してきました。つまり、労働市場の改善が長きにわたって続いてきたということです。

それにもかかわらずインフレはまったく高まりませんでした。コロナ前までの経済界や市場では「なぜインフレが高まらないのか」という問いが議論されていたのです。その答えとして、グローバル化による低賃金労働力の実質的な輸出であるとか、シェアリングエコノミー、テクノロジーの進歩などいろいろな理由が挙げられました。

こうした状況は一夜にして変わるものではないでしょう。ロシアによるウクライナ侵攻でグローバル化の終焉説が唱えられています。たしかに世界はこれから新しい解を見つけにいくでしょう。しかし、それでも一度築いたグローバルなサプライチェーンの見直し・再構築が短期間で進むとは思えません。

ところが、インフレが突如として高進し世界で大問題になっています。いったい何が起きたのでしょうか? コロナ・パンデミックです。BeforeコロナかAfterコロナか、その違いです。

つまり、何がいいたいかというと、今回のインフレはコロナ・パンデミックによる供給制約が主因で、そこにウクライナ戦争によるコモディティー高が一時的に乗っかったというものであり、古典的な経済モデルである「好景気⇒労働需給ひっ迫⇒賃金上昇⇒物価高」というディマンド・プル型のインフレではないということです。たしかに賃金は上がっていますが、それはコロナによる人手不足が要因です。

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