はじめに

兄に勧めた5つの準備

前述の問題点を兄に伝えたところ、まさこさんにこれからも生活の援助をお願いしたいと思っていること、なるべく問題にならないようにしたいとのこと、そして自分が亡くなった際には、まさこさんに財産を遺したいという意思をお話してくれました。

その思いを受けて、今後もまさこさんが安心して生活の援助ができるように「財産管理委任契約」「任意後見契約」「尊厳死宣言書」を、亡くなった後のために「遺言書」「死後事務委任契約」を提案しました。

「財産管理委任契約」「任意後見契約」に関しては、前述で後見人は必要がない可能性が高いとしたのになぜ?と思うかもしれません。これについては、2つ目の問題点である兄の子供の存在です。

例えば、兄の判断能力がなくなった後に、子供がお金を貰いに来たとします。そこで財産管理をしているまさこさんに断られた場合「なぜ父親の財産を勝手に管理しているのか」と言われるケースがあります。こうした場合でも「兄の意思で財産管理を任せた」ということが明確になります。兄の子供としては納得のいかない部分はあるかもしれませんが、この契約書があるだけで、法律的にも大きな力を発揮します。

「尊厳死宣言書」とは?

「尊厳死宣言書」に関しては、回復の見込みのない末期状態になったとき、どこまでの延命治療等を希望するか、又はしないのかを明確にしておくものです。延命治療を「しないため」に作成するイメージの方が多いですが、今回は逆になります。もしかしたら、兄の子供は兄が早く亡くなることで財産を相続できると考えているかもしれません。その際、まさこさんに「なぜ無駄な延命治療をしているのか」と言ってくる可能性があります。このような状況でも対応ができるよう、なるべく具体的にどこまでの医療行為を望むのかを記載しておくことが必要となるのです。

「遺言書」と「死後事務委任契約」

「遺言書」に関しては、今のまま何もしないと兄の相続人は兄の子供1人です。まさこさんに財産を遺すことはできません。もし、まさこさんに財産を遺したいと思っていれば遺言書の作成は必須となります。

「死後事務委任契約」に関しては、葬儀、埋葬、納骨などにはある程度の費用が必要になります。こちらも兄が希望する葬儀等の詳細を記載することで、財産を相続できると考えている兄の子供から「葬儀にお金を使いすぎではないか」ということが言われた場合にも対応が可能になります。また、死後事務委任契約の中で、葬儀などに「連絡をしてほしい人」逆に「連絡をしてほしくない人」など、細かく決めておくことも可能になります。これは連絡をしなかった人に「なぜ連絡してくれなかったの」と言われたときに「兄の希望したこと」と言うことができるようにするためです。

そして、兄は、まさこさんに安心して自分の面倒を見てもらいたい、心の負担を減らしたいという思いから提案した全ての対策を行うことになりました。

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