はじめに
新興国投資の問題点
経済規模、マーケットの市場規模と流動性を考えれば、等量の売りが出たと仮定した時、先進国に比べて新興国の方が大きなダメージを被るのは自明です。新興国経済はファンダメンタルズ(国や企業などの経済状態を表す指標)が脆弱であり、株式や債券など資本市場の規模も、先進国とは比べ物にならないほど小さいからです。
資本市場の規模が小さいということは、それだけ流動性が不足していることを意味します。
流動性とは、買いたい時に買えるだけの売りがあり、売りたい時に売れるだけの買いがあることです。流動性が不足すると、買いたいのに買えないためどんどん価格が吊り上がり、売りたいのに売れないためどんどん価格が暴落するという事態を招きます。結果、株価や債券価格、当該国の為替レートが乱高下しやすくなります。アジア通貨危機でアジア各国の通貨が大暴落したのは、流動性不足に起因した部分も大きかったと考えられます。
たしかに、新興国には先進国に比べて、経済の成長余地が大きいという魅力はあります。
ただ、その一方でマーケットのリスクは、先進国のそれに比べてはるかに高いことは理解しておく必要があります。基本的にこの手の国々への投資は、日本国内からだと投資信託というスキームを用いて行われるのが一般的ですが、運用成績が急落したり、あるいは一向に振るわない状況になったりすると、新規資金の流入が途絶え、なかには解約増によって、ファンドの運用そのものが窮地に立たされるケースもあります。
かといって、新興国企業に個人が直接投資するのは、情報量の面からも非常にハードルが高くなります。ほとんど情報が得られないなかで投資先の企業を選び、そこに資金を投じるのは、無謀に近い行為といっても良いくらいでしょう。
新興国に展開している多国籍企業に投資する
もし、どうしても新興国に投資したいのであれば、むしろ先進国の企業に投資するのが良いと考えています。日本企業でも自動車メーカーや家電メーカー、化学会社、製薬会社などは、新興国に生産拠点を設けています。
このように新興国を生産拠点にしていたり、あるいは自社製品・サービスを販売するマーケットとみなしていたりする会社は、新興国経済が発展すると、それが自社の業績に反映されます。これは米国企業や欧州企業でも同じです。
もちろん新興国のビジネスは、多国籍企業にとってあくまでも事業ポートフォリオの一部に過ぎないので、新興国の経済成長による恩恵が、先進国企業への投資成果にダイレクトに反映されることはありませんが、逆に考えればリスク分散にもつながります。そのうえ先進国の企業に投資するわけですから、市場の流動性は十二分にありますし、為替レートが急落したとしても、個人が直接、新興国企業に投資するのに比べれば、はるかに高度なリスクヘッジが行われているはずです。
これらの点からも、新興国に投資するならば、新興国も含めて多国籍に展開している先進国企業の株式に投資した方が、はるかに安心できるといえるのです。