はじめに

10月17日(月)にリクルートHD(6098)が1,500億円を上限に自社株買いを実施すると発表しました。

2022年は、上場企業の自社株買いが急激に増えているのです。背景として株主還元強化の一環として、自社株買いをしている模様です。

2022年9月末時点で自社株買いの実施企業数は、過去最高だった2019年の843社をすでに超えており、まだ3ヵ月を残していますが実施額も6兆6,245億円超と過去最高を更新しています。実施する企業数も1社あたりの金額も増えている状況です。

2022年の市場のテーマの一つ言っていい注目ワードの自社株買いについて、「自社株買いを実施すると発表しており買い材料となった」とニュースで言われるのはなぜなのか、メリットデメリットや企業動向などをお伝えします。


自社株買いとは?

自社株買いとは、企業が市場に流通している自社の株を買い戻す行為です。

具体的な効果として、まず株主還元方針の強化があります。企業は自社株買いで買い戻した株を消却することができ、消却すると発行済株式が減り、1株あたりの純利益(EPS)が向上します。1株当たりの利益が増えるので株の価値が上がる、つまり株主への利益還元策になります。

次に、経営指標への影響があります。EPSが向上した影響でPER(Price Earnings Ratio)が下がります。PERは「株価 ÷ EPS」で計算され、株価が割安かどうかを判断するための投資尺度のひとつです。PERの数値が低いほど株価は割安であると判断され、自社株買いをするとPERが下がる、つまり投資家から見て割安となるのです。

同様に自社株買いをするとPBR(Price Book-value Ratio)も低くなります。 PBRは「株価 ÷ 一株当たり純資産」で計算される株価純資産倍率のことで、会社の純資産に対し株価がどのような水準であるのかを表します。PBRが低いほど株価は割安と判断されます。

PERやPBRが下がることで割安と判断されると、以前の数値まで戻る期待から買いが増え、株価上昇につながる可能性があります。

また自社株買いをすれば自己資本が下がるため、自己資本に対してどれだけの資本を事業投資しているかを表す数値である財務レバレッジ(総資産 ÷ 自己資本)が高まるため、ROE(株主資本利益率)が上昇するという効果があります。ROEは投資家でチェックされている方も多いと思いますが、資本金をどのくらい効率的に活用しているか判断する経営指標です。ROEが上がると投資家や投資家からの評価も高まります。

加えて自社の株価が割安であればM&Aや敵対的買収のリスクも高まりますが、自社株買いによる株価上昇や持株比率を高めることは、M&Aや敵対的買収の抑止や防衛にもなります。

そのほか、買い戻した株を消却せずに「金庫株」として保管することでストックオプションの取得にも繋がります。ストックオプションとは従業員など社内の関係者が自社株をあらかじめ決められた価格で取得できる権利となります。ストックオプションがあると、株価が上がれば自分の利益につながるため、業務に取り組むモチベーションとなり業績への寄与が期待できます。

お伝えした理由から自社株買いを発表すると同時に、その銘柄に個人投資家の買いが集まり株価上昇につながるケースも多いため、基本的には既存株主にとっても良いニュースといえると思います。実際に、2022年は大規模な自社株買いが相場の支えになっているとも言えるでしょう。

一方で、自社株買いにはデメリットもあります。

企業が自社株を取得する際には手元の資金を使うため、自己資本比率も低下してしまいます。現金が減ることから経営上の資金繰り悪化の懸念もあります。自社株買いをしている企業がキャッシュリッチなのかはチェックしておいた方がよさそうです。

前述しましたが、企業が買い戻した株は消却するか金庫株として扱われます。

消却というのは自社株買いした株を消却して、その株数だけ会社の発行済株式総数を減らすという行為で、取締役会の決議などが必要となります。金庫株というのは、自社株買いした株式を自社で一旦保有して、今後どうするか決めて活用するのですが、多くの場合は後に消却されるようです。日本では2001年に商法改正により金庫株が解禁されています。

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