はじめに

アンゾフの企業成長ベクトルを中小企業向けに応用する

企業の成長の方向性(ベクトル)は4方向あると、アメリカの経営学者のイゴール・アンゾフは提唱します。事業を製品と市場の2軸に区分します。

それをさらに既存と新規に区分します。すると企業の成長の方向性(ベクトル)は4方向あることになります。これを成長ベクトルや成長マトリクスといいます。

1.既存製品×既存市場……市場浸透戦略
2.新規製品×既存市場……製品開発戦略
3.既存製品×新規市場……市場開拓戦略
4.新規製品×新規市場……多角化戦略

(同書P121より)

既存事業を深耕する「1.市場浸透戦略」は重要ですが、経営環境が大きく変わってきているなか、市場浸透戦略だけでは会社の未来は描けないことは確かです。コロナで市場が激減した企業が多く出ました。同社のように災害がなくても市場が半減してしまうこともあります。

そのため、「2.製品開発戦略」「3.市場開拓戦略」「4.多角化戦略」に取り組んでいく必要があります。筆者は2~4をまとめて「新分野への進出戦略」と呼んでいます。

コンサルタントの筆者は長年、アンゾフの企業成長ベクトルをコンサルティング先に活用してきました。その経験上、新規の製品や市場といっても既存の周辺(隣地)と、全くの新規(飛び地)に分けて考えることが大切です。

特に経営資源の乏しい中小企業は既存事業との相乗効果を発揮しやすい周辺分野から事業を拡げていくのが成功の秘訣です。以下の2つの図表をご覧ください。同社は「4′.の環境関連」のプラント設備の製造事業からは撤退しました。

(同書P.116より)

(同書P.122より)

本業との関連のない飛び地型の多角化戦略はお奨めしません。社長の趣味の事業化や単なる儲け話は要注意です。同社は2の製品開発で顧客である書店の売上や生産性の向上に寄与します。一定の成果はありましたが、市場の急激な縮小を食い止めるには至りません。

3の市場開拓は韓国への進出です。韓国市場の開拓も既存事業の穴埋めができるほどの規模にはなりませんでしたが、4の隣地型の多角化戦略のきっかけとなりました。隣地型の多角化戦略は、自社の技術を転用して製品開発を行ない、自社の組織能力を転用して市場開拓を行なうものです。

同社は包装技術を通信販売の仕分け・包装・梱包・ラベリングの発送システム全体に転用します。そしてメーカー直販型で培った販売の組織能力で中小の通販会社を開拓していったのです。

クレカや銀行、ポイント等を連携して見える化!資産管理もできるマネーフォワード MEプレミアムサービス[by MoneyForward]