はじめに
初代から完成していた「スーパーカブ」
初代「カブ」が誕生したのは1958年。
ヨーロッパの二輪販売店を視察した本田宗一郎氏は、「本格的な二輪車はヨーロッパのようなよい道路でしか使えない」と考え、日本向け二輪車の開発を始めたといいます。当時の日本は都心でも未舗装の道路が当たり前でした。
そのような日本で「そば屋の出前が片手で運転できるバイク」を開発することが本田宗一郎の目標だったそうです。
片手で運転できるように手でクラッチ操作しなくてもいい実用的な設計。そして女性がスカートでも乗れるように、自転車と同様にまたげるあの独特なデザインが誕生したわけです。
カブのすばらしいところは、初代カブから現在まで、デザインがほとんど変わっていないという点です。もちろんエンジンなど内部のパーツは最新の技術に置き換わっていますが、外見は初代と最新型でまったくと言っていいほど同じ。機能美が優れているという点で、すでに初代から完成していたわけです。
今後、ホンダに待ち構える苦難とは?
さて、累計1億台のカブの半数以上はアジアで生産され、アジアで消費されてきました。しかし今、ホンダの勝利の方程式が崩れつつあります。
先ほど提示した数字を見るとわかるのですが、二輪事業は高収益なのに比べ、四輪事業は利益率が5%以下とあまりぱっとしません。
そしてアジア市場が急拡大しているのにもかかわらず、ホンダ四輪事業の稼ぎ頭は北米です。二輪のように「ベトナムやタイでホンダ車が強い」という話には簡単にはならないのです。
消費者からみれば二輪と四輪は別モノ。グローバルな情報が入りやすくなった今の時代には、「二輪はホンダ。でも四輪はトヨタやフォルクスワーゲンだ」という情報があっという間に拡がってしまうわけです。
しかも、その二輪市場でも新たな動きが起こっています。
実はアジアでも二輪市場が頭打ちになりつつあり、消費者は四輪へと動き始めているのです。背景には新興国が豊かになってきたという事情があります。生活が豊かになると移動も四輪の方がいい。そう考える人が増えてくるのは当然かもしれません。
さて、そうなるとホンダの選択肢はふたつ。新興国で四輪事業に力を入れるか、ミャンマーやバングラディシュ、アフリカ諸国のようにこれからさらに発展するであろう未開拓市場に乗り出すか。しかし、どちらも簡単な道ではありません。
さらにバイク市場にも電動化の波が近づいています。家庭用コンセントで充電し、近場なら十分に乗りこなせる「電動バイク」が、カブにとって代わる時代がもうすぐ来るかもしれません。
1億台を超えた節目のホンダのカブ。あとから思えば、「1億台のお祝いイベントが頂点だったな……」と言われなければよいと思うのですが、この先、どうなるでしょうか。