はじめに
多くの投資信託は「償還」のための期間が定められています。
1980年代後半のバブル経済ピーク時には、大半の投資信託が「単位型」といって、信託期間中の追加設定が認められていないタイプでした。つまり一度、運用がスタートすると、同一の投資信託を買うことが、原則として認められていなかったのです。
そして、単位型全盛だった時期の信託期間は最長5年で、そのうち当初2年間を「クローズド期間」としたものでした。クローズド期間というのは、ファンドの運用がスタートした段階で多額の解約が生じると、安定したポートフォリオを構築できなくなるリスクがあるため、中途解約を禁止する期間のことを指しています。クローズド期間によって2年程度、資金が動かせなくなるため、投資信託を購入したがらない投資家も大勢いました。
しかし、状況は1990年に入ってからのバブル崩壊相場によって、大きく変わっていきました。単位型投資信託は5年程度の運用期間が終了すると償還になるわけですが、これまで運用開始時の基準価額である1万円を割り込んだことが無かったのに、1990年代に入ってからは株価の暴落を受けて、大半の単位型投資信託が1万円を割り込んでの償還になってしまったのです。
当初、悪あがきであるかのように、多くの投資信託会社は単位型の償還を2年程度繰り延べる償還延長措置を取りました。1992年あたりからのことです。ところが株価の低迷は長期化し、基準価額は一向に1万円を回復することができず、さらに再延長措置を講じる単位型投資信託もありましたが、株価の低迷はさらに長期化したため、1980年代に大量設定された大半の単位型投資信託は、基準価額1万円割れでの償還を余儀なくされたのです。
追加型投資信託の単位型化
こうして単位型投資信託に逆風が吹く中、新たに投資信託の中心になったのが、信託期間中いつでも追加購入できる追加型投資信託でした。追加型投資信託は信託期間を10年、あるいは無期限というように長期化し、その代わりいつでも解約ができるようにしたものです。それ以降は追加型投資信託を中心に新規設定が相次ぎ、現在に至っています。
追加型投資信託の基本的な考え方としては、信託期間を長期にすることで、受益者は過去の運用成績をチェックし、納得できるものを購入して長期間保有するというのが、大前提になっています。ひとつの投資信託を長期間運用し、その間に資金が徐々に流入して残高規模が大きくなっていく。それが理想の姿なのですが、現実問題として起こったのは、「追加型投資信託の単位型化」ともいうべき事態でした。追加型投資信託の商品特性からすれば、たとえば日本株ファンドを設定したら、それを10年でも20年でも運用しつつ、他には日本株ファンドの新規設定はせずに、運用されている日本株ファンドに資金をどんどん集めて、投資信託の資産規模を増やしていくべきです。
ところが、多くの投資信託会社は、まるで単位型投資信託を次々新規設定するかのように、追加型投資信託をどんどん新規設定していきました。結果、一時は6000本を優に超える本数まで、投資信託の本数が増えていったのです。
悪循環に陥った「ゾンビファンド」
その結果、何が起こったのかというと、大量に運用されている投資信託の管理能力低下に加え、次々に新規設定される追加型投資信託の乗り換え商いでした。販売金融機関は今月も翌月も、新しい追加型投資信託が設定されるため、その販売ノルマをこなすため、過去に販売した追加型投資信託を解約させて、新しい追加型投資信託に乗り換えさせるようになったのです。
当然、そうすれば過去に設定された追加型投資信託からはどんどん資金が流出し、それだけ運用難に陥って運用成績がどんどん悪化するという悪循環にはまりました。結果、通称ゾンビファンドなどといわれますが、純資産残高が数億円規模にまで目減りした状態で、しっかりと運用されているのかどうかも分からないまま、とにかく投資信託だけは存在しているという状況に陥った投資信託が、大量に発生しました。
現状、こうしたゾンビファンドの多くが、徐々に繰上償還されています。2022年1月から9月にかけて、188本の投資信託が償還されていますが、このうち94本、つまりちょうど半分の投資信託が繰上償還されています。
いささか厳しい言い方をすれば、繰上償還は受益者に対する背信行為のようなものです。
当初、これだけの期間を運用しますと約束しておきながら、販売金融機関や投資信託会社の都合で追加型投資信託を大量に新規設定し、その都度、過去に設定された追加型投資信託を解約させて新しいものに乗り換えさせた結果、資金流出によって運用難に陥り、挙句の果てに繰上償還されているのです。
もちろん、現状においてゾンビファンドの本数があまりにも多く、繰上償還はやむを得ない面もあります。が、なぜ繰上償還せざるを得ない状況になったのかを、投資信託会社や販売金融機関は自分の胸に手を当ててしっかり考え、二度と同じ轍を踏まないよう業界を挙げて話し合いをし、対策を講じる必要があります。そうしない限り、投資信託に対する信頼感は、ますます地に落ちることになるでしょう。