はじめに

可能性はあるが本当にこうなるとは政治家も思わなかった?

6月24日の市場は大波乱になった。1ドルは一時99円台に突入。株価は終値で1286円超の下落。これらの混乱の原因は昼過ぎに飛び込んできたまさかの「英国の国民投票、EU離脱票が過半数で勝利をする見込み」というBBC放送のニュースだった。

投票前は離脱派が追い上げているとはいえ、最終的には僅差で残留派が勝つと見込まれていて、離脱派が勝つケースは「そういうリスクを考えておいたほうがいい」というレベルだったこともあり、こうして離脱派が勝利を収めることが確定すると市場がこれだけ混乱するのは仕方のないことだと思うしかない。

さて、なぜ英国がEUから離脱すると円高になったり株安になったりするのか。不安定に展開するであろう今後のマーケットを読み切るためにも、簡単にこれまでの経緯をまとめておこう。


そもそもはキャメロン首相が自分の延命のためにした提案にはじまっている

そもそも英国がEUから離脱するかどうかなどというアジェンダは、もともとはなかった。それが政治課題になってしまったきっかけは3年前のキャメロン首相の公約だ。要は自分の立場が危ういと感じたキャメロン首相が国民に「EU離脱の是非を問う国民投票」の実施を約束してしまったのだ。

実はそれまで本気でEU離脱をしたほうがいいと考えるイギリス人は少数派だった。ところがいったんアジェンダとしてEU離脱をするかしないか?という選択肢をつきつけられたところで、それを選択肢として考える国民の数が急速に増えていった。

英国のEU離脱が意味することは、英国という支えがなくなったEU経済の危機が増し、そのことによって経済全体が大きく後退するということだ。それを英国が選んでしまうと、実は英国市民にもそれが跳ね返ってきて経済危機でイギリス人の生活も悪化する。

にもかかわらず、なぜ英国国民が生活の悪化を選んだのか?

英国市民が経済の悪化よりも大切だと選んだもの

なぜ経済が悪化するにもかかわらず離脱を選んだのか?それは今回の選択が、生活の悪化を選ぶか?それとも安全の悪化を選ぶか?の二択が問われるアジェンダだったからだ。

EUがかかえる経済以外のもう一つの大問題が、シリア難民の問題だ。何十万人という難民が国境を越え、トルコ経由でEU各国に押し寄せている。

そして、そこから始まる新たなリスクがEUの社会問題になっている。フランス、ベルギーではテロ事件が起き、ドイツでは移民による暴動事件が社会問題となり、EU各国では移民や難民が従来からの住民たちの仕事を奪うと警戒されている。

英国はEU各国の中でも比較的まだ難民の波が押し寄せていない島国だ。その市民が手遅れになる前にと「経済を選ぶか?それとも安全を選ぶか?」と問われて出した結論が、「経済が悪化してもいいから生活の安全を選びたい」だったのだ。

世界沈没のリスクを覚悟する必要がある

正直、伊勢志摩サミットで安倍総理がアジェンダにした当時はまだ「リーマンショック級の経済危機」は机上の議論だったのだが、今回のEU離脱はそれを実体化させるほどのインパクトがある。

EUから離脱したい国はまだほかにもたくさんある。ギリシャ、スペイン、イタリアなどの債務を肩代わりすることで国民が不満を感じているフランス、ドイツなど、英国以外の主要国の国民は今回の英国の離脱で大きく揺れるだろう。なにしろ損失を肩代わりする重要な仲間が一つ逃げたのだ。

これから徐々に、英国に次いで沈みかけの船から逃げ出す国が増えるかもしれない。沈みかけた船が本当に沈むかもしれない。そうなると今週以降、世界経済にはどんなリスクの連鎖が起きるのか、予測がつかないところがあるだろう。

株式相場は一時的に一段と下がる可能性があるが、楽観的観測から株や通貨を買って後から損失を増やさないためにも、「英国市民は経済の悪化を選んだ」という事実だけは忘れないようにしたほうがいいだろう。

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