はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

大きい貯金ができたので投資資金に回しているのですが、投資用不動産のローンの利息と保証金を毎月払い続けている状況です。今後も投資は続けていくつもりですが、利息を抑えるために、現在の低金利下でもまず繰り上げ返済をするほうがよいのか、それともほかの投資に資金を回すべきかが判断できない状況です。

国内不動産のみに偏った資産形成には否定的なため、むやみに物件を増やしたくはありません。状況によっては、不動産の売却も考えております。最適な資産形成についてアドバイスをいただければと思います。現在の資産状況は以下のようになります。

【現在の収入と支出の傾向】
収入:年収2,000万円(自営業)、妻は専業主婦です
支出:月あたり合計60万円~80万円
内訳:家賃10万円、社会保険・年金8万円、事業関連の出費(書籍や移動費など)10万円~30万円程度、その他諸々で30万円程度。

【今後の収入金額と予測される支出】
今後、子供が増えないかぎり、出費は減る傾向にあると思います。貯金の目標額を設定していませんが、消費しない分はすべて投資に回しています。マイホームや車の購入予定はありません。自営業のため、今後も収入は非常に不安定になると思います。仮に数年後に企業に再就職した場合には、年収800万円~1,000万円程度を想定しています。アーリーリタイアは考えていません。

【現在の資産】
資産:1,800万円程度(現金200万円、投資用資金1,600万円)
2年前から日本株・米国株にインデックス中心で投資をしており、割合はその時々で変えています。職業はトレーダーではありません。

【現在の負債】
投資用マンション2部屋
<物件1>借入2,100万円・残高1,860万円
(変動:月利0.270%=利率0.164%+保証料0.106%、月返済額は8.4万円)
<物件2>借入1,750万円・残高1,600万円
(変動:月利0.197%=利率0.091%+保証料率0.106%、月返済額は6.1万円)
合計14.5万円を返済し、管理手数料を1.5万円支払っています。対して家賃収入は合わせて14.6万円となり、差し引きは毎月赤字の状況です。そのほかの借金はありません。
(30代前半 既婚・子供なし 男性)


野瀬:ちょっと収支構造が複雑なので整理しましょう。

質問内容には年収が2,000万円とあり、事業関係の出費が10万~30万円/月とありましたので、2,000万円というのは収入から経費を差し引いた所得ではなく、純粋な売上だと考えます。

売上は2,000万、経費は平均して20万円×12カ月で240万円、さらに過去に買った固定資産の減価償却費と青色申告特別控除もあるでしょうから、40万円ぐらいを引き、所得控除を差し引く前の所得は、仮に1,720万円とします。

そこから各種控除を引くと、概ね課税所得は1,500万円程度となり、さらに所得税、住民税を引くと、ざっくり残るのは1,200万円程度になるかと思います。

この1,200万円が消費や投資に回せる基本金額となります。なお、今回はご質問者がサラリーマンに戻った場合を仮に想定し、5年後以降の手取収入は720万円と仮定します。

そして、既に考慮した事業関連費などを引いた、40万円×12ヶ月で480万円がご質問者の生活関連費と考えます。

不動産投資が赤字でも資金に余裕あり

不動産については現状毎月1.4万円の赤字となっていますので、1.4万円×12ヶ月+固定資産税を30万円/年≒47万円を毎年不動産投資のキャッシュアウトとしておきます。

これらの諸条件を組み込み計算を行った結果、将来的に資金的がショートすることはありませんでした。むしろかなり余裕があります。

その理由は以下となります。

(1)現在の年収及び、就職後の年収が高い

(2)基礎生活費は低いとはいえないが、子供がいないため追加的な支出がない

ただ、ご質問者が目指すのは「より多い老後資金」だと思いますので、そのあたりの改善案がないかを考えてみました。

より資産を増やすための、2つの改善案

(1)不動産について

正直、この不動産はキャッシュ・フローがマイナスになっていますので、何らかの手は打つべきです。

不動産投資の基礎知識としてROI(獲得キャッシュ/投下キャッシュ)がマイナスのものは持ってはいけないとありますので、以下の2つの方法を検討してください。

【案1:売却】
老後に自分が住む家として、ひとつを確保しておくのはよいですが、今は不動産の相場も高いので、ひとつは売却してもよいでしょう。古い方の物件はおそらく4年ほど前の購入だと思いますので、少し値上がりしているぐらいだと思います。

ただ、不動産の売却益にかかる税金は、取得より5年を超えるかどうかで2倍違いますから(長いほうが税金が安い)、このあたりは入念にチェックするとよいでしょう。

【案2:自分で住む】
物件の広さにもよりますが、ふたつのうちひとつに自分が住むことで家計は見違えるほど改善します。

家賃の10万円がかからなくなるので、ローン返済の7万~8万円を上回る家計改善効果があります。

(2)投資への比率を増加

正直、家計に関してはあまり圧縮する必要はないと思います。夫婦二人で家賃込で月40万円というのは高いのですが、お子さんも「増えない限り」とありましたので、現在はお子さんの予定はないのかと思います。

そうであれば、わざわざこの金額を切り詰める理由もありませんので、今まで通りの生活を送ればよいと思います。

ただ、家賃に関しては【案2】にも書きましたが、投資物件のひとつに住むなどして改善してもよいかもしれませんね。

となると、見直すのは投資となります。ご質問者の場合、今の状態のままでも十分老後資金はカバーできているので、現預金比率は60%(場合によっては50%)きっかりにしたままで、それを上回るものは従来通りインデックス投資に回しておくとよいでしょう。

資産運用をするうえで心に留めること

まとめると「不動産のひとつを売るか、自分が住む」「金融資産における現預金の比率が60%を超える部分はインデックス投資に回す」の2点になります。

その結果、以下のポートフォリオになることが予想されます。

【自分で住んだ場合】不動産約3,500万円、投資約2,500万円、現預金約4,000万円
【売った場合】不動産約1,700万円、投資約3,300万円、現預金約5,200万円

不動産、投資、現預金の比率として非常にバランスが取れていると思いますので、このあたりを10年後の目安にしてはいかがでしょうか。

最後に、大切なのは就職するのであれば貯金がたくさんできるこの5年の蓄財を大切にすることと、大きなマイナスになるようなリスクがある投資を行わないことの2点です。

この2つを心に決め、資産運用を楽しんでくださればと思います。

この記事の感想を教えてください。