はじめに

「乳がんになり、生活が厳しいので家計を見直したい」

家計の悩みは対応策が見つかれば解決できそうと思われがちですが、がん患者さんの家計相談の場合、夫婦間の家計の方向性をすり合わせしながら進めていかないと、解決が遠のいてしまうことがあります。

がん患者さん専門の家計相談を行う筆者が、夫婦で家計の見直しについて話し合うポイントを解説します。


家計の悩みを打ち明けられずに悩む妻

家計のやりくりに関しては、ご家庭ごとのルールがあります。共働き家庭では「家計は一つにまとめず、別財布で分担しながら管理していた」「夫から1ヵ月分使う分だけ受け取っていた」といったケースは多く、夫の給与明細をみたことがない方もいるほどです。

働くことが可能で収入が維持できている場合は全く問題ありません。しかし、突然がんなど大きな病気になったとき、「治療費は払っていけるのか」「これからどう生活していけばいいのか」「蓄えや保険の給付金で賄えるのか」「子どもの進学費用はどうすれば良いか」と、一気に不安が押し寄せます。

確定診断のための検査から治療方針が決まる時期までは、一日一日があっという間です。医師からの説明を受け、職場への報告、各種手続きなど非日常のことが続く上、日々の家事育児や仕事をこなさなければいけない状況で、家計の不安を抱えながらも「個人的なお金の悩みだから誰にも打ち明けられない」と一人で抱えてしまうことがあります。

夫婦の話し合い無しに固定費の見直しは進まない

以前の記事でもお伝えしましたが、がん治療中には心身への負担が大きくなる食費や光熱費の節約はお勧めできません。

特に、乳がんの場合は進行度や分類(サブタイプ)にもよりますが、年単位で高額療養費の自己負担額を支払うケースや、ホルモン剤などで5年、10年処方代がかかるケースがあります。手術の合併症であるリンパ浮腫や薬の副作用などで今までよりも働きにくくなり、収入が減ることもあります。そのため、人によっては長期間の家計の見通しを立てていく必要があります。

治療費にまわすための支出の見直しで費用対効果が大きいのは固定費です。

例えば通信費や生命保険料、住宅ローンや家賃、動画や購読などのサブスクリプションサービスといった費用は、生活状況や使い方が変わらなくても、契約時から費用が固定されていることが一般的です。変更するには事前に契約内容の確認やプラン・他社比較などが必要となってくるので、慣れていない方にとってはハードルも高くなります。

さらに、家族それぞれの価値観や使い勝手などが影響してくるため、変更するためには夫婦の意向のすり合わせは必須です。家計相談では、住宅ローンや生命保険料などの契約内容を変更することで家計が楽になりそうとわかっても、夫の同意が得られず契約内容を変更できなかったケースがありました。

家族による代理変更も可能な場合もありますが、家計を管理し大変さを痛感している妻が見直ししようと思っても、夫が契約者の場合は夫自身が契約を変更する必要があるのです。

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