はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
サラリーマンでも特定支出控除で確定申告ができると聞きました。先輩に勧められたものの、いまいち理解できません。交通費や本代など、どのくらいまで大丈夫なのでしょうか? 例えば「脳を鍛える」みたいなビジネス本は完全に仕事のためなのですが、直接的な資料ではないので経費として認められないのでしょうか? 具体的に教えてもらえると嬉しいです。
(30代前半 独身 男性)
野瀬 :特定支出控除に関するご質問は、確定申告シーズンになると非常に多く寄せられます。
適用範囲が広がったのが理由のひとつですが、もうひとつはこの「特定支出控除」に関して、国税庁の確定申告書作成ページが明らかに使いやすくなったからです。
該当する特定支出控除の金額を打ち込むだけで、簡単に給与所得控除の金額を加算できるようになりました。
特定支出控除が適用される条件
さて、ここで復習も兼ねて念のため制度について説明しますと、「仕事に関係する支出は、サラリーマンでも追加的にいくらかは経費として認めますよ」という制度で、条件は以下の通りです。
(A)仕事に必要な交通費・衣料費・転勤費・書籍・研修費・資格取得・交際費
(B)「給与所得控除」金額の1/2を超える金額部分である
(C)領収書があり、かつ、給与を支払っている会社の承認がある
現状のルールでは(B)のハードルが高く、制度に該当する人はなかなか少ないと思います。
たとえば年収が額面で400万円の方だと、給与所得控除の金額は94万円となり、1/2の47万円を超える(A)がなければ制度は利用できないからです。
しかも会社ではなく、自分個人で負担したものに限られます。そうなると通勤費などを使うのは難しそうですね。
そう考えると該当するケースで一番多いのは、資格取得で専門学校、スキルアップのためにグロービスなどの学校に学費を払ったようなケースではないでしょうか。
また、接待がどうしても必要な業界であれば個人負担している交際費も多いでしょうから、そういった費用を会社に認めてもらうのもひとつの手かもしれません。
資格取得や交際費が多いのであれば、申告をやったほうが税金が安くなる(還付が受けられる)可能性はあります。
なので思い当たるフシがあれば、確定申告したほうがよいでしょう。
経費と認められるもの、認められないものの差は?
一番の条件は、会社が『仕事に必要』と認め、証明書を発行してくれることです。
先ほどの交際費の場合は、特にこの点がハードルになると思います。当然、本当に仕事に必要という事実は重要ですが、もうひとつ重要なのは普段の会社内での仕事っぷりや評判ではないでしょうか。
きちんと仕事をする人であれば、会社側も「アイツが言うなら仕方ない」「アイツなら本当に仕事に使ってるんだろう」ということで証明書を喜んで発行してくれるはずです。
特定支出控除で気をつけること
気を付けてほしいポイントは複数あります。
(1)交通費について
15,000円以上の高額の交通費の場合は「本当にその飛行機や新幹線に乗ったかどうか」という証明書が必要とされています。なぜなら「乗ったこと」にして、その切符を金券ショップに売って現金を得て、買った時にもらった領収書はちゃっかりこの特定支出控除に使う人がいるからです。
そこで、面倒ですがJRなどで「乗ったことを証明する書類」を貰う必要があるのです。
ただ、忙しいビジネスマンが毎度JRで証明書を貰うのも現実的ではないので、飛行機であればチケットの半券、新幹線であれば駅員さんにスタンプを押してもらった切符を携帯カメラなどで取っておく程度でもよいでしょう。
(2)資格取得について
従来は認められていなかった、会計士や弁護士、税理士についての資格取得のための勉強費用も今年の確定申告より認められるようになりました。
これらの職業は「仕事のため」というより、「将来独立することを目指して」という色合いが強いですので、従来は認められていなかったのですが、最近は企業で働く士業も増えましたので認められるようになりました。
特に税理士の場合は、会計事務所などで働きながら資格取得を目指すケースがほとんどですので、忘れずしっかり申告して税金を安くしましょう。
(3)会社が出す証明書
規定のフォームがありますので、国税庁のHPよりフォームをダウンロードしてください。
この特定支出控除の制度は、競争の激しいサラリーマンも世界で、文字通り身銭を切ってスキルを高めたり仕事を頑張っている人に税制上の恩恵を与える趣旨です。ですから、当然の権利として該当するのがあれば、どんどん申告して税金を取り返したいですね。