はじめに
物価の見通し
それでは、次に物価の見通しもみてみましょう。目先は輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から高めの伸びとなるとしています。新型コロナウイルスによる供給制約や、ウクライナ戦争による影響でエネルギーや素原材料の価格が上昇しただけでなく、ドル円相場でも円安が急ペースで進んだこともあり、輸入する際の価格が上昇し、それを企業が販売価格に転嫁しているということですね。
しかし、足元では円安も海外のインフレもピークアウトしていることから、輸入物価の上昇は日本国内でも鈍化していき、政府の経済対策によるエネルギー価格の押し下げ効果もあって、来年半ばにかけてはプラス幅を縮小していくとみているようです。
中長期的には予想物価上昇率や賃金上昇率が高まっていくもとで、政府の経済対策によるエネルギー価格低下の反動などもあり、再び物価上昇率はプラス幅を緩やかに拡大していくとしています。
人々、つまり家計や企業の予想物価上昇率が高まっていくと、企業の価格・賃金設定功労や労使間の賃金交渉の変化を通じて、賃金の上昇を伴う形で物価の持続的な上昇につながっていくと考えられるとしていますが、これこそが日銀の目指す物価上昇のかたちであって、これまでにも出てきた輸入物価の上昇による、いわゆる「コストプッシュ型」のインフレを目指しているわけではないということは理解しておきましょう。
金融政策の変更に注目
国が出来る主な経済政策は政府による財政政策と中央銀行による金融政策です。なぜ、このタイミングで日銀の現状認識と将来の見通しを確認したのかというと、新たな日銀総裁がどのように金融政策を変更させる可能性があるのか、ということを事前に考えるためです。金融政策が変更しても、株や為替を取引している人にしか影響はない、と考える方も多いのですが、そんなことはありません。
昨年12月に10年国債利回りの変動幅拡大を決めたことにより、住宅ローンの固定金利が上昇しましたが、仮に短期金利を引き上げれば、今度は変動金利にも上昇圧力がはたらきます。また、金利が全体的に引き上げられれば、個人にとっては住宅ローンだけでなく、その他のローンに適用される金利も上がりますし、企業にとっても新たに資金を借り入れる際に、支払わなければならない金利負担も高まります。
これまでみてきたように、現在の物価上昇はあくまでエネルギー価格などの上昇によるものですが、このインフレを契機に賃金上昇が実現し、需要が物価を押し上げる展開になるかどうか。新たな総裁が黒田路線を踏襲して異次元の金融緩和を維持するのか、それとも金融緩和を解除していくのかは、このようにして日銀の現状認識と見通しを理解することによって予測が出来るのです。