はじめに
上野松坂屋南館の跡地に完成した上野フロンティアタワー。その核テナントとして1~6階に入ったのがパルコです。同社にとって東京東部への進出は初めて。東京23区への新規出店は、1973年の渋谷パルコ以来、実に44年ぶりとなります。
でも、パルコといえば20~30代がお客さんの中心。上野御徒町という買い物客の年齢層が高めのエリアで受け入れられるのか、不安の声も上がりそうです。
もちろん、パルコとしても、そんなことは承知の上。従来よりも高めの年齢層にも受け入れられるため、「上野パルコヤ」はどこをどう変えてきたのでしょうか。
パルコヤの「ヤ」って何?
11月4日に開業した「上野パルコヤ」。先駆けて開催された内覧会に訪ねると、そこにはパルコらしくない、独特の空間が広がっていました。
エントランスの「PARCO_ya」という看板の下にぶら下がるのは、お店のロゴをあしらった大きめの提灯。初っ端から“パルコらしくなさ”全開です。
この「パルコヤ」という店名。「ya」は「yet another(もう1つの)」という意味らしいのですが、これは後付けの説明だそう。パルコの牧山浩三社長は、こう種明かしをします。
「お隣りで200年以上商売を続けてこられた松坂屋さんをリスペクトして、パルコヤと名付けました。活気のある下町エリアなので、歌舞伎や花火の『〇〇屋』という掛け声も参考にしました」
老舗の蕎麦店が作る新名物
パルコヤがある上野御徒町界隈は、江戸時代から栄えてきた東京を代表する下町の1つ。地元には代々家業を継いできた職人さんが多く住む土地柄です。一方、今年で開業250年を迎える松坂屋上野店を中心に、歴史ある商業施設も集積しています。
百貨店と同じことはできないし、地域のお店がやっていることもダメ——。そんなマーケティング結果から導き出した答えが、“パルコっぽさ”と“下町らしさ”が入り混じった、普通のパルコではないパルコだったのです。
ターゲットは、パルコの他の店舗よりも年齢が上の30~50代。テナント選びも、従来とは異なるアプローチで臨みました。特に力を入れたのが、地元に縁のある老舗に新しい試みにチャレンジをしてもらうことでした。
うえの やぶそばが提供する「和ガレット」
代表例は、1892年に上野で創業した「うえの やぶそば」。明治から受け継がれてきたダシで味わう蕎麦も一興ですが、この店でしか味わえないのが、香り豊かな蕎麦粉を使った「和ガレット」。食事系のものとデザート系のものが月替わりで提供される予定です。
ほかにも、東京で最も予約が取りにくい店の1つとされる日本料理の「くろぎ」が、新業態のカフェバーを1階に出店します。創業者が上野で修行したという吉田カバンも、新ブランド「クラチカ・バイ・ポーター」の1号店をパルコヤに構えます。
AIカメラで顧客動向を解析
地元の老舗に新しいチャレンジをうながす一方で、地元の常連客にも配慮しました。
たとえば3階には、建て替え前の松坂屋上野店南館に入っていた「あんみつ みはし」が出店。「地元の常連の方から『みはしで食べたあんみつが忘れられない』と聞き、一番に声をかけました」(牧山社長)。同じく南館で人気だったカフェ「ハーブス」にも出店を要請したところ、「最新型で出店してくれた」(同)といいます。
一方で、パルコらしさも忘れていません。「パルコに入ることでテナントさんが良い商売ができるようになることが大事」と、牧山社長は語ります。
そのための施策の1つが、案内ロボットの導入です。6階の飲食フロアには「シリウスボット」というロボットが配置されており、目当てのお店まで案内してくれます。今回は試験導入ですが、将来的にはロボットに商品の棚卸し作業をしてもらい、テナントのスタッフが接客に集中できるようにしたいといいます。
店内を案内する「シリウスボット」
また、来店者の計測カメラに人工知能(AI)を搭載し、来店客の年齢や性別を解析できるようにしました。どのテナントにどういう属性のお客さんが入っていったかがデータとして蓄積され、それをテナントにフィードバックすることで品ぞろえやレイアウトの最適化してもらう考えです。ちなみに、映像データは解析後すぐに削除されるそうです。
「これからの都市に必要なのは、いろいろなプロフェッショナルが集まった複合業態。パルコは専門店の集合体として進化しながら、マーケットに合わせて一番心地いいものを提供していきます」(牧山社長)
パルコらしい斬新さと下町の伝統文化が融合したパルコヤ。渋谷や池袋で培ったトレンド発信力が上野御徒町をどう変えていくのか。一度訪れてみる価値はありそうです。