はじめに
5月15日(月)の取引終了時間近くに、楽天グループ(4755)の株価が急落しました。私はラジオNIKKIの生番組に出演するため、電車に乗っていて、スマホで株価を見ていたのですが、14時50分頃に740円超えで推移していた同社の株価が、あっという間に一時625円まで売られました。一部報道機関から、公募増資や第三者割当増資などを検討していると発表されたことで大幅下落となりました。
株価急落の背景
翌5月16日(火)の引け後に、楽天Gが発表した内容は公募増資などで3,320億円規模の資金を調達する見込みで、国内外の投資家を対象に販売したい考えと同時に、第三者割当増資では三木谷浩史社長の関連会社とサイバーエージェント、東急などに割り当てると発表されました。調達資金は社債の償還や楽天モバイルへの投融資などに充てられます。
5月17日(水)の同社株は一時584円まで下落し、年初来安値をつける場面も見られました。なお先週末、5月19日(金)の引け値段は607円となっています。
楽天Gが発表した1-3月(2023年第1四半期)期の業績は、グループ全体の売上収益は4,756億円で、前年同月比で9%のプラスとなり、ECや金融、旅行などの事業は好調に推移しています。一方、モバイル事業で1,026億円の損失を計上し、純損益は826億円の赤字となっています。モバイルの設備投資への費用がかさんでいることが分かります。問題はやはり楽天モバイルの資金繰りです。
同社は20%を出資している西友ホールディングスの株式をすべて売却することを5月12日(金)に発表しました。4月には楽天銀行を上場し、717億円を調達しています。モバイル事業への設備投資を踏まえつつも、今後3年で約9,000億円の社債償還も控えていて、予断を許さない状況が分かります。
同社の時価総額は1兆円弱、自己資本比率に目を向けると約4%を割り込む事態となり、これはあまりにも低すぎる水準です。
楽天Gは、2017年12月に携帯電話事業に参入を発表しました。2018年4月に総務省が同社に1.7GHz帯の割り当てを決定、2020年4月に正式に携帯サービスを開始し、同年6月に契約件数が100万回線を突破し、2021年3月には契約件数が300万回線を超えました。順調に契約件数を伸ばしていましたが、現在は450万回線を中心に変動しています。
今後の焦点となるモバイル事業
5月15日(月)に開示された同社の決算説明会資料の中で、2023年6月1日(木)から楽天モバイルは、月額最大2,980円(税込3,278円)はそのまま、データ高速無制限エリアを拡大し、日本全国の通信エリアで高速データ通信が無制限で利用できる新プラン「Rakuten最強プラン」の提供を開始すると発表しました。現在、Rakuten UN-LIMIT VIIを契約している顧客は6月1日(木)以降、「Rakuten最強プラン」が自動適用されるとしています。
この発表を行う前の5月11日(木)に楽天モバイルとKDDIは、新たなローミング協定を締結した事を発表しました。ローミングとは、携帯電話やインターネット接続サービスなど、利用者が契約している通信事業者の提供サービス範囲外の場所で、他の事業者の設備を通じて音声通話やインターネットなどのデータ通信を利用できるようにする仕組みです。
新たな協定によって、両社はこれまでローミングに含まれなかった東京23区・名古屋市・大阪市を含む、都市部の一部繁華街のエリアを新たな対象とし、一部インドア(地下鉄、地下街、トンネル、屋内施設など)やルーラルエリアも引き続きローミング提供することに合意しました。
楽天モバイルは自前の通信網をできるだけ早く整備するべく、基地局の設置を急ピッチで行いましたが、巨額の投資が同社の経営を揺るがす事態となっており、新たな協定締結を行った可能性も考えられます。
今後の焦点は、6月から実施する新プランにより、契約回線数を増加させられるのか、世間の注目が集まります。ただ、Wi-Fi環境が整ってきている現状で、大幅に契約回線が伸びるとは考えにくい面もあります。
今回は大幅な増資で資金不足を凌ぐ事が出来ましたが、読者の皆様の中にも同社のサービスをご利用されている方も多いと思います。現在0円ユーザーがいなくなり、課金者のみを対象にしている事で、赤字幅の縮小に関しては成功しています。まずはモバイル事業の黒字化が焦点になりそうです。