はじめに

日経平均がバブル崩壊後の高値を更新しました。その後も買いの勢いは衰えず3万1000円の大台も越え、1990年7月以来、約33年ぶりの水準まで上昇しました。日本株が急伸した背景として様々な要因を指摘できますが、まずはもっとも基本的なことを確認しましょう。


ファイナンス理論によれば、株価に限らず、すべての証券の理論価格は将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いたものとして表すことができます。キャッシュフローを左右するのは企業の業績であり、割引率は長期金利です。端的にいえば株価は企業業績を金利で割り引いたものだと言えます。

ここでPは株価、Eは企業業績、rは割引率(金利)を表します。

日銀の金融政策はどうなる?

まず分母の割引率(金利)から見て行きましょう。日本の金利を左右する金融政策については植田・日銀の新体制になっても金融緩和が継続する見通しです。日銀の植田総裁は先月下旬の金融政策決定会合後の記者会見で、金融引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクより、拙速な引き締めで2%の物価安定目標を実現できなくなるリスクの方が大きいと指摘し、粘り強く金融緩和を継続していく考えを示しました。

YCC(イールドカーブ・コントロール)の修正などはあっても、それはあくまで債券市場の機能不全を改善させる目的の、いわば金融緩和の「副作用」への対応であり、本格的な金融引き締めへの転換は「1年から1年半程度の時間をかけて多角的に行う」とされたレビューのあとになるというのが市場のコンセンサスだと思われます。

これで少なくとも向こう1年程度は金利が大幅に上がる可能性は低くなりました。一方、欧米ではインフレのピークは過ぎたと考えらえるものの、物価上昇率の低下スピードは緩慢であるため、金融当局は依然として金融引き締めのスタンスを維持するでしょう。追加利上げは停止しても、高い水準に政策金利が据え置かれる状況は続くでしょう。こうしたことから先進国の中で日本の金融緩和が際立つ構図となります。

海運・商社の落ち込み、好調な自動車産業

次に分子のEについてですが、企業業績は好調で3月期決算一巡後、今年度の上場企業の業績はわずかですが増益となり、3期連続で最高益を更新する見通しです。前期に特需によって潤った市況産業の代表格である海運や商社は、海上運賃や資源高の一服で今期は大幅減益になります。

そのかわり、それらの落ち込みを埋め合わせるのがグローバル製造業の回復です。そのけん引役が自動車産業です。完成車大手7社の合計純利益は5%増の見通し。トヨタ自動車はグループ世界販売が1138万台と過去最高となり営業利益で初の3兆円を見通します。ホンダも1兆円を目指しています。半導体不足などで遅れていた生産が回復し、原材料高も乗り越えて稼ぐ力が戻ってきました。こうなると円安も素直に業績の追い風です。部品メーカーにも好影響を与え、デンソーは6年ぶりの最高益になる予想です。

このように企業業績は最高益で、それを割り引く金利は当面上がらないとなれば、「業績÷金利」で表される株価が上昇しないわけがありません。日経平均のバブル後高値更新は当然の帰結です。

海外投資家が日本株を見直している理由

こうしたファンダメンタルズの良さに加えて、需給やマクロ、政治の安定性など多くの要因が指摘できます。著名投資家ウォーレン・バフェット氏の日本株に対するポジティブな見方も海外投資家の呼び水となった可能性があります。5月第2週の投資部門別売買向によると、海外投資家は7週連続の買い越しとなりました。7週連続の買い越しは2020年11~12月以来、約2年半ぶり。累計の買越額は2兆9000億円弱に達し、これに先物も含めると買い越し額は4兆円を上回ります。

海外投資家が日本株を見直しているのは、東証によるPBR改善要請を受けて、日本企業が大きく変貌する兆しを鋭く嗅ぎ取っているからなのかもしれません。実際に、ROEやROICの目標を掲げる企業が増え、増配や自社株買いなどの株主還元の発表が相次いでいます。

日本のマクロ環境も良好です。先週発表された2023年1~3月期の実質国内総生産(GDP)1次速報によれば、経済成長率は前期比年率1.6%増となりました。消費も緩やかに回復し、堅調な設備投資が経済成長をけん引しました。緩やかなインフレも経済を前向きに進めるのに貢献し、30年ぶりの賃上げによって家計にも明るさが出てきました。

さらに広島サミットが成功裡に終わったことで岸田政権に対する支持率も向上、日本の政治の安定性も日本株の好材料でしょう。

バリュエーション面では日経平均の予想PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)は14倍台半ば。これを割高と見る向きもあります。確かに過去1年でみれば14倍台は高いですが、アベノミクス相場開始の2013年から過去10年の平均PERは15倍強で、まだ平均にも達していません。急ピッチに上昇でテクニカル的に調整を入れる必要はあると思いますが、調整完了後は再び上昇基調に回帰していくと考えます。

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