はじめに
日経平均株価は11月7日に2万2,937円を記録。バブル崩壊後の高値2万2,666円を上回り、約26年ぶりの水準まで上昇しました。
こうした中で、ネット証券大手のマネックス証券がセンセーショナルな取り組みを始めています。10月27日に「日経平均株価が3万円に上昇する」という公式見解を発表したのを皮切りに、関連したオンラインセミナーや投資情報の発信を進めているのです。
ただ、26年ぶりの高値となったものの、足元の株価水準と3万円との間にはまだまだ大きな開きがあります。日経平均が3万円に到達すると主張する、マネックスの“根拠”と“狙い”はどこにあるのでしょうか。
松本社長が掲げる3大根拠
マネックス証券が11月9日に開いた記者会見の席上。同社の松本大社長は「1年半程度のスパンで日経平均は3万円を目指して上がっていく」との見通しを示しました。
その根拠として掲げたのは3つ。1つ目が金融緩和路線の維持、2つ目が株価上昇に対する日本社会のコンセンサスの変化、そして3つ目が日経平均構成銘柄の新陳代謝です。
それぞれの理由について、もう少し詳しく見てみましょう。まず、「金融緩和路線の維持」です。この点について、松本社長は「先の衆院選で左派が分離して、日本銀行の総裁人事にリフレ派が継続して就任することに反対する勢力が小さくなったため」と指摘します。
一般的に、中央銀行が金融緩和を進めると、市中に出回るお金の量が増え、それが株式市場にも流入し、株価を上昇させる要因となります。現在の黒田東彦総裁は2013年の就任以降、いわゆる「異次元緩和」を進め、それが「アベノミクス相場」と呼ばれる株価上昇の一因となったと考えられています。
黒田総裁の任期は2018年4月までとなっており、それまでに後任人事を決める必要があります。10月の衆議院議員選挙の結果、金融緩和路線に反対する野党の議席数が与党の議席数を大きく下回ったため、黒田総裁の後任は現在の路線を踏襲する人物になる可能性が高まったというわけです。
日本市場が質的に変化?
続いて、2つ目の「株価上昇に対するコンセンサスの変化」とは何を指すのでしょうか。この点について、松本社長はこう解説します。
「今まで、株価を上げる政策について議論すると、金持ち優遇という批判があり、しっかりとした議論が進みませんでした。ですが近年、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が日本株の保有比率を増やしており、日本株の上昇は日本国民全体にプラスになるというコンセンサスができやすくなっています」
米国と日本の一番大きな違いは、株価上昇に対する社会としてのコンセンサスがあるかないか、だと松本社長は指摘します。この違いが解消されることで、政府も株価を上昇させるための政策を打ちやすくなる、というロジックです。
最後に、3つ目の「日経平均構成銘柄の新陳代謝」です。この30年間、米国ではNYダウ平均株価、上場企業の時価総額ともに約12倍になったのに対し、日本では時価総額が約2倍になったものの、日経平均はほぼ変わらずの水準にとどまっています。
その理由について、松本社長は「日経平均の中身があまり入れ替わらず、経済が新陳代謝して成長していることを捉えられていませんでした。ただ昨今は、日経平均に入っている銘柄も強制的に外されるようになりました。インデックスとしても上がりやすい状況です」と分析します。
こうした3つの要因が、日本の株式市場に質的な変化をもたらしている。その結果として、2018年度中に日経平均は3万円に到達する、と松本社長は見ているのです。
日経平均3万円に込めたメッセージ
もちろん、日経平均3万円までには波乱の芽もあります。
たとえば、2019年に予定されている消費税率の引き上げ。この年は4月に統一地方選、7月に参議院議員選挙、10月に消費増税が予定されており、「鬼門がたくさんある、波乱含みの年」(マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジスト)。消費増税が景気を腰折れさせることが危惧された場合、当然のことながら株価の上値を押さえる要因になります。
ただ、こうした短期的な波よりも重要なのは「質的な変化を認識すること」と松本社長は唱えます。そんな同氏が会見で何度も繰り返したのは「説明」と「議論」という言葉です。
これまでは、“手段”であるはずの長期・分散投資ばかりが話題になり、「なぜ日本株が長期的に上がっていくのか」という見通しがしっかり説明されてきませんでした。それがひいては、政府の掲げる「貯蓄から投資へ」という流れが進まない、あるいは、足元の株価上昇局面でも長期投資ができていない原因になってきた、と松本社長は主張します。
「今こそ、日本株がしっかりと上がっていくということについて説明し、議論し、一緒に考えていくことが重要。そうでないと、個人投資家は何をしたらいいのかわからず、短期的な利食いに走ってしまう。こういう行動を起こして、個人投資家の間で認識を形成していくべきなんです」
証券業界からは、2000年代のITバブル崩壊やリーマンショックなど、個人投資家が株に手を出した途端に株価が暴落する流れを繰り返してきたことが個人投資家の投資意欲を削ぎ、「貯蓄から投資へ」を阻害する要因になった、という声をよく聞きます。
ですが、株式投資において重要なのは、そうした短期的な波に右往左往することではなく、腰を据えて、その企業、その業界、その国の、長期的な成長に賭けることなのではないでしょうか。マネックスのセンセーショナルな取り組みは、日本の個人投資家の現状に一石を投じる動きとなりそうです。