はじめに

高配当株投資:定期的なキャッシュ・インが魅力

高配当株投資とは、配当利回りの高い銘柄へ投資する手法です。

定期的に配当金が入ってくるため、株式投資の恩恵を実感しやすく、多くの個人投資家に人気のある手法となっています。

配当利回りは、株価が下落すると高くなるという性質を持っているため、「株価下落時に高配当だから」という理由だけで投資をする人も案外いるもの。

ですが、「業績悪化によるさらなる株価下落と減配」というダブルで損失を被る事態もしばしば発生します。

これはバリュートラップと呼ばれます。

そのようなことを避けるためには、連続増配銘柄や累進配当銘柄など、株主還元方針で減配しないことを原則としている銘柄を選択する必要があるのです。

また、「高配当株投資は非効率である」という論調をしばしば目にしますが、これはサスティナブル成長率が論拠となっていることがほとんど。

サスティナブル成長率とは、配当を出さずに内部留保した資金を再投資した際に期待される成長率で、その計算式は以下のようになります。

サスティナブル成長率(%)=ROE×内部留保率

ちなみに、内部留保率は(1−配当性向)となります。

つまり、高配当銘柄とは、配当性向が高くなる傾向にあるため、内部留保率は下がり、成長率も下がるという考え方です。

上記の計算式を見ていただいても分かるように、サスティナブル成長率は、ROEと内部留保率が高い(つまり配当性向が低い)と高くなるもの。ポイントとなるのは、配当利回りそのものではなく、ROEと配当性向であることが読み取れます。

高配当であってもROEが高く、配当性向の低い(あるいは適正な水準にある)銘柄は存在しており、この点に留意しつつ銘柄を選択できれば、成長性の問題はクリアされるのです。

その他、税金の観点から非効率であるという主張も見かけることがあります。

これは、配当を出した時に課税されるため、配当を出さずに内部留保して事業投資した方が効率的である、という考え方です。

しかしながら、現実問題として、そのセクターを代表するような超一流企業で、配当を出していない企業など、ほとんど存在していません。

また、配当を出していないインデックスファンド(市場全体の動きに連動した成果を目指す投資信託)も、そのような配当を出している企業群でファンドが構成されていることに留意が必要でしょう。

結局のところ、完全無欠の投資手法など存在しないのです。

高配当株投資は、上記のような課題を抱えつつも、それでもなお魅力的な投資手法です。

ペンシルベニア大学大学院のジェレミー・シーゲル教授は、高配当銘柄群へ投資した方が、低配当銘柄群へ投資するよりも幾何平均リターンは高く、ベータ値(株式市場全体の動きに対して、個別企業の株価がどの程度反応して変動するかという数値で、ベータ値が低いほどリスクは小さくなる)は低いという調査結果を発表しています。

これはすなわち、リスクを抑えつつ高いリターンが期待できることを意味します。

また、配当による定期的なキャッシュ・インは、株式投資を続ける上で大きなモチベーションとなってくれるでしょう。

毎日の株価の変動はエキサイティングではありますが、時として心を乱され、精神的に疲弊してしまうことも少なくありません。

最悪の場合、株式投資をやめてしまうことも起こりえます。これは非常にもったいない話です。

その一方、毎年の受取配当金を増やすことにフォーカスし、株数を積み上げていく「貯株」という発想であれば、意識は株価の変動ではなく、株数と配当金に向かいます。

たとえばKDDIを100株買えば、税引き後でも年間1万円強の配当金を受け取ることができます。

そのお金を使って家族で外食するのもいいでしょうし、配当を再投資するのもいいでしょう。

たとえ1株、100円の積み上げであったとしても、スーパーでジュースを1本買うことができます。

このように、自由に使えるお金が定期的に入ってくることは、大きな安心感につながるのです。

値上がりを期待して株を買うのではなく、配当金を受け取る権利である株を買っている、という発想です。

また、実際に配当金が振り込まれた時には、株式投資の恩恵を実感できるのはもちろん、「株式投資は長く続けていくことが大切だ」 という初心も思い出させてくれるでしょう。

インデックス投資:誰でも平均点が狙える再現性の高さが魅力

インデックス投資とは、日経平均株価やTOPIXなどのマーケットの動きを示す指数(インデックス)と同じような値動きとなるような運用を目指した投資手法です。

一般的に資産運用の要諦は「長期・積立・分散」といわれています。

インデックス投資を長く継続していくことで、長期的には当初に想定した期待リターンが実現する確率が上がり、また、少額から積立をおこなうことで無理なく継続することが可能です。

さらに、インデックスファンドを主な投資対象とすることは、分散をきかせた運用が可能となることを意味します。

インデックス投資の最大の強みは、その再現性の高さにあります。

これは、投資初心者であろうとも、株式投資を始めたその日から平均点(市場平均リターン)が期待できるということ。

そして、株式の長期的な期待リターンは年6~7%程度といわれていますので、平均点とはいっても十分なリターンと考えられるでしょう。

ただし、長期的な資産形成を進める上で有効な手段の一つなのですが、右肩上がりで資産が増えていくのではなく、上昇や下落を繰り返しながら、長い目で見れば緩やかに上昇していることに留意が必要です。

つまり、市場全体が下がれば、インデックスファンドの基準価額も下落するということ。

ちなみに、リーマンショックでは、短期間でその価値が半分以下になったことは覚えておきたい事実です。

また、信託報酬といわれる運用管理費用や、隠れコストと言われている売買委託手数料、有価証券取引税、保管費用、監査費用など、保有を継続する限りかかり続ける費用があることも覚えておきましょう(信託報酬とその他費用をあわせ「実質コスト」と呼ばれています)。

『新賢明なる投資家』では、インデックス投資をドルコスト平均法でおこなった際の効用について、わかりやすく記載されています。

かなり長い文章ですが、みなさんが長く投資を続けていく上で精神的支柱となってくれると確信し、ここに紹介しておきたいと思います。

何よりもまず、防衛的投資家なら、インデックスファンドをコア(核)としていったん恒久的な自動売買システムでポートフォリオを組んでしまえば、市場に関するどんな質問にも、「知らないよ。そんなことどうでもいいさ」と、最も力強く答えることができるはずだ。債券は株よりも高いパフォーマンスを上げるだろうかと尋ねられても、「知らないよ。そんなことどうでもいいさ」と答えればいいのだ ─ 何しろ、あなたはその両方を自動売買しているのだから。ヘルスケア株のせいでハイテク株はさえなくなるだろうか?「知らないよ。そんなのどうでもいいさ」 ─  あなたはその両方を恒久的に保有しているのだから。第二のマイクロソフトは?「知らないよ。そんなのどうでもいいさ」 ─ 十分に成長して保有できるようになればインデックスファンドが保有してくれるので、それについて行けばいいのだから。来年は外国株が米国株に勝つだろうか?「知らないよ。そんなことどうでもいいさ」

─ もし勝てばその儲けを手にできるし、もし負けてもさらに安値で買い増すことができるのだから。自動売買システムに乗せたポートフォリオを組めば、「知らないよ。そんなことどうでもいいさ」と言うことができるし、金融市場の今後の心配 ─ そして他人の妄想 ─ からも解放される。将来のことをいかに知らないかを知ることに加え、自分の無知を受け入れることが防衛的投資家の最強の武器なのである。『新賢明なる投資家』(ベンジャミン・グレアム&ジェイソン・ツバイク/パンローリング)より

自分に合う手法を模索しよう

ここまで、バリュー投資、グロース投資、高配当株投資、インデックス投資の特性を学んできました。

どれか一つを選択しなければならない、というルールはありません。

実際に、バリュー株、グロース株、高配当株、インデックスファンドをミックスしたポートフォリオを組む個人投資家も数多く存在しています。

大切なのは、株式投資を実践していきながら、自分に合った(自分が勝てる)手法を模索していくことです。

投資を検討する時に、これはバリュー投資だからとか、これはグロース投資だからとかを考える必要はなく、どの程度のリターンが期待できるのかという視点が肝要でしょう。

『ダンドーのバリュー投資』という本がありますが、その中では以下のように記載されています。

1.本質的価値に対して割安度が大きいほど、リスクは低くなる。

2.本質的価値に対して割安度が大きいほど、リターンは高くなる。

『ダンドーのバリュー投資』(モニッシュ・パブライ/パンローリング)より

割安な株を買えばリスクが低くなり、リターンが大きくなる。これは、ローリスク・ハイリターンという詐欺のような話に聞こえます。

しかし、いくつかの条件が整えば、上記のような投資も可能となるケースが存在し、その多くは株価暴落時に訪れます。

過去の株価の推移を確認していただければ分かりますが、リーマンショックやコロナショックのようなことが起こると、株価はその本質的価値を大きく下回る程に暴落します。

その一方で、暴落後の株価の回復も早く、結果的に短期間で大きなリターンをもたらしてくれるのです。

株価の下落余地が少ない銘柄を選択して株価下落リスクを抑えつつ、配当をもらいながら株価の上昇をじっと待つ。

言い換えれば、想定される株価の下落幅よりも上昇幅の方が大きいと考えられる銘柄、期待値の高い銘柄を選択するということです。

前作や本書では、上記のようなことを念頭に置きつつ、株価が割安となっている時を狙ってコツコツと積み上げていく手法を紹介してきました。

私自身、その手法を用いて過去10年間の幾何平均リターンはインデックスを上回ることができており、その有効性を実感しています。

ですが、最も大切なのは長く投資を続けることです。

具体的にどのように投資するかについては、インデックスファンドと併用して、バリュー株やグロース株、高配当株を組み入れるなど、その組み合わせは無数にあります。

色々と試して、自分に合った長く続けられる投資手法を模索していきましょう。

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