はじめに
中国最大のEC、アリババグループが毎年11月11日に仕掛ける「双十一(シュアンシーイー、11がふたつ並ぶことから命名。英語名でダブルイレブンとも)」が1日で1,682億元(≒約2兆8,500億円)という驚異的な売上を叩き出したことは、日本でも大きく取り上げられました。
ただ、この額はあまりに大きすぎて、数字を聞いてもどれほどの規模なのか実感がわきません。一体、普通の人にどれくらい影響を与えているものなのか?
今回は現地からその熱狂の実態をお伝えしたいと思います。
「双十一」ってどんなイベント?
「双十一」は正式名称を「双十一购物狂欢节(双十一お買い物カーニバル)」といいます。
10月の国慶節と12月のクリスマス・年末に挟まれて閑散期になりがちな、この時期をどうにか盛り上げたいという目的で、2009年からアリババ傘下の「天猫(T-Mall。正確には09年当時は旧名の淘宝商城タオバオショッピングモール)」が、はじめたイベントです。
ただ、初年度に参加したブランドはわずか27、売上も5,000万元だったと記録されています。
それから8年、今年は開始後たった11秒で売上1億元を突破、この時点で初年度総売上の2倍に達するほどの成長ぶりです。
現在では、EC業界における最大のライバル「京東(JD.com)」や他の大手ECモールはもとより、幅広い業種の実店舗でもセールが行われることが当たり前となり、街には関連広告があふれます。
この時期の生活は皆、“お買い物一色”という印象です。実際に、何人か集まると「双十一で何を買うか決まった?」という会話が交わされることがいわば風物詩となっています。
私がある時乗ったタクシーでは、30秒間ずっと「双十一! 双十一!」とだけ叫び続けるラジオCMが流れていました。また知人の1人はその日偶然、偽ブランド屋に行ったところ、何も伝えていないのに「双十一だから」と割引してもらったとのこと。
この現地の雰囲気を日本で例えることは非常に難しいのですが、もし「楽天スーパーセール」と「Amazonプライムデー」、そして「Yahoo! Japanいい買物の日」が同時に開催されたら、この“半分くらい”の熱気になるかもしれません。
決戦前夜、上海に1.8万人が集結
アリババは毎年この前日に、大型の前夜祭イベントを実施しています。
今年は上海のメルセデス・ベンツアリーナを借り切り、ニコール・キッドマン、ファレル・ウィリアムスを筆頭にチャン・ツィイーやファン・ビンビンなどの有名女優、国際的に知られるピアニストのラン・ラン、そして最近復帰したテニスのシャラポワ選手までが出演する、超豪華なものとなりました。
イベント公式微博より
実はこのイベント、チケットを買えば誰もが入場できる仕組みではなく、参加にはいくつかの条件を満たす必要があります。
まず最も厳しいのが、淘宝または天猫の超級(スーパー)会員の資格です。超級会員になるためにはサイト内のポイントシステム「淘气值」が1,000以上必要です。
この得点を上げる方法は公開されていないものの、数万元分は必要といわれる買い物の金額のみならず、購入後商品にコメントをする、ほかのユーザーの質問に答えるなどのSNS活動の頻度も基準になると噂されています。
ただ、以前はこの超級会員になっても、あまり大きなメリットはありませんでした。しかし最近はこうしたアリババ主催イベントのチケットや、7月に発売された同社のスマートスピーカー「天猫精灵(Tmall Genie)」の予約購入権など、少しずつ優遇される場面が増えています。
次に、チケットの購入には実名認証を行った支付宝(Alipay)のアカウントが必要です。この実名認証のためには中国の身分証が必須で、私のような外国人はたとえ買い物をたくさんしていたとしても、これ以上進むことはできません。また転売防止のため、入場時にも身分証の提示を求められるので、友人に代理で購入してもらうこともできません。
そんなわけでは私は実際に会場内の様子を見ることはできませんでしたが、当日の様子はネットやテレビで中継され、非常に盛り上がっている様子が見て取れました。
会場の周辺には多くのダフ屋が出没し、イベント開始から3時間近く経っても定価500元の倍近い値段でチケットが取引されていました。
同アリーナの収容人数1万8,000人は、中国の人口から考えれば決して多い数とはいえません。しかし、これが平日の夜に行われたイベントであり、その全員が数万元の買い物をした上で、さらに積極的に交流している買い物マニアばかりと思うと驚きを禁じえません。