はじめに

筆者は本業としてフルーツギフトショップを経営しているのですが、先日、お客さんからマスクメロンについて、こんな問い合わせをいただきました。「マスクメロンは1万円以上のものと数千円で売られているものがありますが、何が違うのですか」。

実は、たまたま見かけたテレビ番組でも同様の話が取り上げられていました。番組の中では「5,000円と2万円のマスクメロンの味はまったく同じで、網目の盛り上がりしか違いがありません」と回答されていました。

確かに間違いではありませんが、この答えだけでは「言葉足らず」と感じます。味は同じかもしれませんが、それ以外ではいくつか違いがあるのです。今回は高級メロンを販売している業者の目線で、両者の違いについて詳しく解説します。


等級ごとに用途は異なる

マスクメロンの中でも静岡県袋井市で収穫され、一定基準を満たしたものは「クラウンメロン」と呼ばれます。クラウンメロンには4つの等級があり、等級の高いものから順に「富士」「山」「白」「雪」という名称がつけられます。

冒頭にお話しした2万円のメロンは「富士」、5,000円のメロンは「山」の等級がついたクラウンメロンに当たります。

このように説明すると、「富士」と「山」との間にはとても大きな違いがあるように感じられるかもしれません。しかし、クラウンメロンの等級は「山」でも十分な品質で、味はもちろん、形も美しく、傷もなく、高級贈答用にはまったく問題ないレベルです。

高級メロンの価値を決める「網目」

では、なぜ高級メロンの間でも金額に大きな違いがあるのでしょうか。

テレビ番組では「高級メロンの金額は網目の盛り上がりに関係している」と説明していましたが、これは間違いありません。「たかが網目なのに?」と思われるかもしれませんが、この網目を美しく作る過程というのは非常に奥の深い世界で、高い技術と経験が求められる職人さんの世界なのです。

メロンは成長段階で傷がつくと、その傷を修復しようとして網目が作られます。人間の体は傷がつくと、かさぶたができて、しばらくするとなくなります。いうなれば、メロンの網目は「一度できると消えないかさぶた」のようなもの。高級メロンの生産者はわざとメロンの玉に傷を付け、美しく網目を作るように誘導するわけです。

網目の出来栄えはメロンの味や香りに影響することはなく、単に外観を美しくするだけです。しかし、美しく大きく網目の盛り上がったメロンは全体の流通量の中でもとても少ないのです。希少性により高値がつけられるのは経済の原則なので、美しい網目のメロンは高い等級がつけられ、取引価格も高くなります。

老舗高級ブランドの価格戦略

高級メロンの高級たるゆえんは、美しい網目だけではありません。販売業者のブランド力による部分も大きく、メロンの品質もさることながら「そのメロンは誰が販売しているか」によっても価格は大きく異なります。

高級フルーツブランドの大御所、千疋屋を例に見てみましょう。同社の看板商品は何といっても高級メロンです。購入用途の約9割が贈答用で、売り上げの約2割を占める同社のメロンは、1本の茎に1つの実を育てる「一茎一果」栽培です。

メロンは本来、1本の木にたくさんのつぼみをつけますが、その中から1つだけを残して他はすべて摘み取り、残された果実に養分を集中させて収穫するという、量より質を取る栽培方法です。厳しい基準をくぐり抜けたメロンだけを取り扱い、絶対的な品質への自信で保証書をつけており、万が一気に入らなければ交換に応じるといいます。

こうなると、贈っているのは高級メロンというより「千疋屋」というブランドそのものです。老舗ブランドのフルーツを購入するお客さんは「こんなにいいものをいただいた」という贈り先の喜びの声を期待しており、それを実現するために老舗ブランドの信用力や、フルーツの品質、知名度を活用しているといえるでしょう。

高価格だからこそ、気軽に買うことができず、思いがけず受け取る相手側にサプライズと高級感を与えることができます。高級メロンの値段が高いのは、老舗高級ブランドが値段を高くしても販売できるからなのです。

季節変動を反映しない価格設定

今では年間を通じてハウス栽培ができるようになったので、フルーツショップでメロンを年中購入することができます。しかし、いくらハウス栽培といっても高級メロンにも旬があります。本来の収穫の最盛期は初夏~夏にかけての暑い季節です。

この時期はハウスの暖房費もかからず、量もたくさん出回るので、仕入れ原価は安くなります。反対に、冬は流通量も減ってしまいますし、暖房費もかさむので、原価が高くなるのは避けられません。

変動する仕入れ原価を販売価格に反映するかが、メロンの販売価格にも影響しています。

一部のフルーツショップでは1年のうち、マスクメロンの価格を数回変更しています。仕入れ原価が下がれば販売価格を下げ、その逆も同じです。価格変更に関する手間を考えると1年中同じ値段で販売したほうが楽ですし、利益もたくさん取れます。

ですが、それをしないのは「いいものをお値打ち価格で」というポリシーを持っているからです。安く仕入れができたら販売価格を下げる、仕入れ価格が上がったら販売価格を上げる、という具合に手間をかけてやっています。

反面、年間を通じて同じ1グラム当たり価格で販売する業者もあります。この場合、あらかじめ販売価格を高く設定しておかなければ、オフシーズンには赤字になってしまいます。ブランド価値を維持するため、また金額変更しなくて済むために価格を高く設定しておくのは、販売者側にとっては理にかなった話です。

高級メロンが高い背景には、これだけの事情があります。百貨店などでメロンを目にする機会があったら、今回の話を思い出しながら見てみると興味深いかもしれません。

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