はじめに
賃上げは格差社会をもたらすのか
極端なことをいえば、物価がどれだけ上昇したとしても、賃金がそれ以上に上昇していれば問題はないのですが、実際はそうはなっていません。厚生労働省が発表した2023年10月の毎月勤労統計(速報)によると、実質賃金は前年同月比-2.3%となっており、19カ月連続でマイナスの伸び率を記録しました。物価上昇に賃金の伸びが追いついていない状態が続いていることになりますが、こうなると消費は伸びません。総務省が発表した2023年10月の家計調査によれば、2人以上の世帯が消費に使った金額は前年同月比-2.5%となり、8か月連続でマイナスの伸び率を記録しています。実際にスーパーで買い物をしていても、プライベートブランドの商品や、見切り品として値下げされているものばかりが買われている印象を持ちます。
消費が伸びなければ企業の売上は伸びませんから、賃上げをする原資が用意できません。2023年の春闘では30年ぶりの高水準となる3.6%の賃上げが実現しましたが、足元で家計が節約に走っている現状を考えると、2024年も同様に高水準の賃上げができるのは資金力に余裕があったり、価格転嫁するパワーを持っていたりする大企業に限られ、価格転嫁がうまくできていない中小零細企業は厳しく、結果として就業先の会社規模によって格差が生じてしまうでしょう。
2024年のドル円相場は米国次第?
物価や賃金について考える場合、輸入物価や企業業績に影響を与える為替についてもある程度の見通しを持つ必要があります。2023年は円安の1年となりましたが、2024年は円高方向を意識するような展開になるかと考えます。私自身は2023年にそうなると予想していましたが、1年ほどズレてしまいました。そのシナリオは以下の通りです。
日本では前述の通り、「インフレ局面に突入したからこそ金融政策を正常化すべき」という意見が多く、実際に植田総裁をはじめ、日銀関係者もその第一歩となるマイナス金利の解除について言及することが増えてきました。複数回にわたるYCCの柔軟化はすでに金融政策の修正が始まっているともいえるのかもしれません。
一方で、米国では短期間に金利を大きく引き上げたことによる景気減速という副作用を懸念し、市場では来年の5月から利下げ局面に突入し、年内に5回の利下げが行われることが予想されています。
仮に日本が金融政策を正常化し、米国は利下げ局面に突入するということになると、日米の金利差は縮小していくことになります。元々、ドル円相場と日米金利差は相関関係が強いという指摘はありますが、特にこの1~2年はその相関関係が強まっていることもあり、故に2024年は日米の金融政策の方向性が反対になるため、円高方向になると予想するのです。
ただし、日本では内需が弱く、最大の貿易相手国である中国にデフレ懸念があることを考えると、本当に日銀が金融政策の正常化をスムーズに進められるのかは怪しい部分がありますし、米国では利下げをするほど経済が弱いのか、と思うほど経済が堅調であることを考えると、果たして前述のように1年で5回もの利下げを行うとは考えにくいといえます。そうなれば、基本は円高方向に動くというシナリオは維持するものの、その速度はそれほど急激なものにはならないと考えます。