はじめに

投資というと、資金も知識も潤沢にある人が行うものと思われがち。最近は金融商品のバリエーションも増え、会社員のかたわら資産形成をしたい個人投資家などにも広く門戸が開かれている。なかでも時間と手間を省けることから、個人投資家に支持されているのが「インデックス投資」だ。金融市場全体の動きを表す指数に連動する運用方法で、手間がかからず手数料などのコストが低いことから、サラリーマン投資家でも挑戦しやすいことで知られている。

有名投資ブロガーとして経済誌にも取材されることも多いkenzさん(40代)も、インデックス投資を推す人物の一人。現在、都内の大手企業で働くかたわら、2007年からインデックス投資をスタート。資産額にしておよそ数千万円、運用益にすると+50%オーバーに達する好成績を残している。そんなkenzさんにインデックス投資をはじめたきっかけや、サラリーマン投資家として望ましい心構えについて聞く。


人類が経済の発展を目指す限り「インデックス投資」は有効な資産運用

kenzさんのインデックス投資歴は、勤める会社が企業型の確定拠出年金をはじめたことに端を発する。それまでは、ネット銀行の定期預金のみで、投資の知識はほぼゼロだったという。

「それまでの会社の企業年金は確定給付年金で、決まった利回りでの給付だったのですが、『何割かを確定拠出年金に移行するから説明会に出ろ』と言われ、よく分からないまま参加しました。そのとき、加入できる商品として紹介されたのが、基本4資産(日本株・日本債券・先進国株式・先進国債券)のインデックスファンドすべてが揃っており、プラス日本株だけアクティブファンドも選べるようになっていました」

決断までの猶予は1カ月。決めないなら自動的に定期預金になると言われ、しぶしぶ勉強をスタート。渡された冊子に書いてある商品について勉強していたところ、インデックスブロガーの記事が検索に引っかかり、熟読することに。

「説明会が金曜だったので、土日2日間で100件以上の記事を読みました。分かったことは、明らかにインデックスファンドの方が、アクティブファンドよりも有利だということ。というのも、アクティブファンドはインデックスファンドより良い成績のものがあっても事前に選ぶことができず、信託報酬などの手数料が高い分、確率的にはインデックスファンドに負けることが多くなります。そこで、何はともあれコストの低いインデックスファンドを選ぶことにしました」

そんな地道で堅実な資産運用が、投資ビギナー時代から今日までkenzさんの投資の軸になっている。また、インデックス投資ならではの「世界市場と連動している」ことによる、資本主義全体に投資している点も魅力だったという。

「インデックス投資は、言ってみれば世界経済への投資です。アメリカをはじめとする先進国がこれから30年間でどうなるか、もしかしたら将来、いま小国だと思われている国がアメリカのような大国になっている可能性もありますよね。ただ、インデックスであれば、どんな国のどんな株式を持とうが、経済情勢に応じて勝手にファンドの比率が変わります。そのため、『すごい儲けを出そう』ではなく、『市場の成長分を貰えればいい』というスタンスが望ましいと思います。あとは本業の仕事を頑張った方が良いですね」

極端にいえば「世界市場の発展が止まる」=「人類の経済活動レベルが衰退していく」。つまり、人類の経済発展を信じるのであれば、インデックス投資に懸けるほうが良さそうとkenzさんは語る。

2017年5月時点のアセットアロケーション。商品は「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」や「<購入・換金手数料なし>ニッセイTOPIXインデックスファンド」など、信託報酬が低いものや販売手数料無料のもので構成している

投資は社会情勢や会社の業績に左右されず「選択できる人生」を生きるための手段

最初は1万円で注文してまたキャンセルする、を繰り返すほど慎重だったkenzさん。開始してすぐにリーマンショックが訪れるが、そこについては念入りな学習が生き、どんと構えていたそう。

「値段が上がると買う人が増えて下がると怖くて手放す。株って特殊な世界なんですよね。ただ、投資信託は特定の会社が倒産して暴落するリスクがないですし、そこまで焦りはしませんでした。とくに投資初心者の人はリスク許容度をどう決めたらいいか悩むかもしれませんが、それって『免許を取ってないのにどれくらいのスピードで自動車を運転したいか』を聞くのと一緒だなって思うんです。最初は、手持ち資産の1割くらいからはじめてみて、慎重に試しながら慣れていけばいいのではないでしょうか」

一方で投資をよく知らないのに、知ったかぶりをしている人には手厳しい。

「投資は怖いとか、ギャンブルだとか言う人がいますけど、そういう人が会社員をやっている時点で早く矛盾に気づいてほしいと思いますよね。だって自分の会社もたいてい“株式会社”なわけで、市場があるからこそ存在しているわけだし、仕事を頑張って利益を出しているから給料が貰えているわけです。ちなみに、私の部署にいる課長の一人は『俺は株なんか大嫌いだから』って全部定期預金にしていますが、上場企業に勤務しているのになんで?って思いますよね」

そんなkenzさん、資産運用の目的は人生の選択肢を増やすことに他ならないという。

「会社を辞めても、あるいはリストラされても最悪食べていける状況に持っていくために頑張っています。今、私が勤めている会社は業績も良くて、給与面や福利厚生もよくなっています。でも株式会社である以上、“なんちゃらショック”や“なんちゃら危機”で給与減やリストラもある危うい側面を持っています。そうしたもしもの時に、会社が潰れてしまっても、家族を食べさせていける、生活できると思っていればとりあえず安心。あとは嫌な上司のもとで我慢しながら働き続けたり、評価に一喜一憂したりせず、“会社都合”に左右されることなく仕事をしたいですよね。“お金がないから会社にしがみつくしかない”、そんな悲しい選択をしたくないから頑張っているんです」

いまは情報も多く、ネットでも売買できることから、やる気さえあれば気軽に投資信託の扉を叩くことができる。しかし、順調に運用しているからと言って本業をおろそかにしないのがkenzさん流だ。

「資産を増やすには、仕事での収入と資産運用の両輪が重要です。私もまだまだ目標の資産額には遠く及びませんが、『資産額としてはリタイヤ可能だけど仕事が好きだから毎日出社して頑張ってます』って言える状態が理想だなと考えています」

(末吉陽子/やじろべえ)

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