はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

70歳でいったん仕事を引退しました。その後、以前の取引先から依頼を受け、現役時代の外注に依頼をし、今年の1月から10月の間に売り上げが323万円立ちました。


一方で、外注に依頼した分の支払いが288万円となりました。粗利益は35万円出ていますが、経費や燃料代、配達料などを加えると、利益は出ないかたちです。このような場合、確定申告は必要でしょうか? また決算書の作成方法を教えてください
(70代以降 既婚・子供3人以上 男性)


野瀬: ご質問ありがとうございます。

まず、確定申告が「必要」になる方について整理しましょう。

確定申告が「必要」になる人

相談者の方の場合、確定申告が必要になるのは「所得が20万を超えている場合」です。これは、収入ではありません。

内容をおうかがいしますと、今年は売上より経費のほうが多く利益は出ないようですので、確定申告は不要となります。

以前は年金生活者の方は確定申告を行う必要があったのですが、改正があり年間の公的年金受給額が400万円以下の方は確定申告が不要になりました。

つまり、公的年金が年400万円以下、かつ「売上-経費=所得」が20万円以下であれば確定申告は不要になります。

確定申告したほうが「得」な人

ただし、必要はなくても、したほうが“得”という場合があります。

「納めるべき税金がないのに、どうして申告する必要があるのか?」と思われるかもしれませんが、質問者の方のように「利益が出ない」場合は申告したほうが得になるケースが多いです。

その理由は「還付」と「損失の繰越」の2つです。

まず、還付について。年金であってもそれが一定金額以上であれば源泉徴収、つまり税金があらかじめ差し引かれているので、年金収入と事業の損失を合算相殺することで「合算したら税金はもっと少ないはず!」と確定申告で主張し、すでに差し引かれている税金を取り返すことができるのです。これが還付です。

お金が返ってくるのですから、申告したほうが得というのはわかりやすいですね。

損失の繰越の条件

次に、損失の繰越について。たとえば、今年の売上から外注や経費などをすべて引いた金額がマイナス、つまり「損失」が100万円出たとします。当然、税金はゼロです。

そして翌年、同じ事業で今度は100万円の「利益」が出たとします。

仮に税率が20%だとすると、翌年は「100万円×20%」で20万円の税金となると思うのですが、損失の繰越を行った場合、「100万円+100万円=0」となり、ゼロに20%をかけてもゼロなので、翌年の税金もゼロになるのです。

この、損失の繰越をするためには確定申告を行う必要があるのです。これは翌年になってからでは間に合いません。損失が出た年度に確定申告を行う必要があります。

ただし、この損失の繰越には条件があります。

それが「青色申告」であることです。確定申告には大きく分けて2種類あるのですが、大まかに言いますと、きっちり帳簿を残すのが青色申告、そうではないのが白色申告です(ただ、昨今の改正で白色申告でも帳簿をしっかり残すことが義務付けられましたので、両者の差はあまりなくなりましたが……)。

この青色申告は、毎年3月15日までに税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。もし質問者の方がまだ提出されていないようでしたら、必ず提出してくださいね。

決算書の作り方は?

さて、最後にご質問のあった「決算書の作成方法」です。

法人ではなく個人事業主で、かつ質問にある程度の売上であれば、基本的にはご自身で作成することができるでしょう。

確定申告の時期になると国税庁のWebサイトにて申告書の作成コーナーができます。パソコンをある程度使える人であれば、簡単に作ることができると思いますので、ぜひ試してみてください。

流れとしては、事業の売上・経費をまとめた決算書たる「収支内訳書」を作成し、その後、年金金額などそれ以外のものについて「申告書」に記載していく手順となります。

パソコンが大の苦手、もしくは国税庁のWebサイトを見てもよくわからないという方には、奥の手があります。

毎年2月の確定申告シーズンには税務署が無料相談会を実施していますので、そこに行ってわからないことはどんどん聞くとよいでしょう。決算書の作成までしっかり手伝ってもらえます。

通常、税理士に相談するとお金がかかりますが、この相談会には税理士もいる上に無料なのでおすすめです。

1万円の還付のために税理士に3万円払うというのは本末転倒ですので、領収書や請求書金額をきっちり整理集計した上で相談に行くとよいでしょう。ただ、あくまで最終手段として使ってくださいね(笑)。この時期は税務署も大変忙しくなります。

決算書作成時の注意点

最後に決算書を作る際の注意点を2つ挙げておきます。

(1)領収書に漏れはないか?

確定申告にあまり慣れていない場合、領収書や請求書をなくしてしまうこともあるでしょう。こういった場合でも相手によっては再発行してくれるケースもあるので、試してみましょう。

かく言う私も自身の申告はいつも後回しになってしまいますので、「領収書がない!」ということも稀にあります。ただ、昨今は領収書や請求書もメールで来ますので、過去のメールを探して再度プリントアウトするなどで対応できます。

(2)経費に漏れはないか?

本当は経費にできるのに経費にしていないものがないか、という点です。

質問者の場合、おそらくご自宅で仕事をされているので「仕事部屋」が存在すると思います。

こういった場合、作業面積や日数、時間によって合理的に按分することにより、自宅の家賃を経費にすることも認められていますので、「本当に仕事だけに使っている部屋」が存在するのであれば、その分の家賃を経費にしてもよいでしょう。

これは家賃に限らず、携帯電話代や水道光熱費も同じです。こういった「本当は経費にできるのにし忘れているもの」は意外に多いです。確定申告前にしっかり注意して考えましょう。

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